16.蓮野が可愛い。
「おいおいシンディー、冗談もいい加減にしてくれよ。あはっはっ」
「誰がシンディーよ。彼方、誤魔化さないで」
「…」
いかん。
動揺しすぎて海外の通販番組風に誤魔化してしまった。
動揺しすぎた俺はこんな風になるのかぁ…これは新発見だなぁ…ははは…。
って…嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
え!?蓮野が、え?えええええええええええええええええ!?
これが動揺しすぎた人間の心情である。
いや、いやいやいや。落ち着けよ。泉彼方。
俺にこんな展開が訪れる事なんてないだろ、よく考えろよ。
そうそう、もう一度本人に聞けばいいじゃないか。
俺が口を開こうとした瞬間、その台詞を蓮野が予想してたと言わんばかりに塞いだ。
「言っておくけど、勘違いじゃないから、私、本気で彼方の事が好きなの」
「…」
蓮野さん…?顔が真っ赤ですよ?
おっと、俺の顔も温度が急上昇中ですねぇ。
おかしいなぁ…ニヤケも止まらない…てか、蓮野の顔見れない。
彼方は机とにらめっこ。余波は彼方のつむじをずっとじーっと見ている。
二人の間に不思議な空間が作られる。
そしてこの居心地の悪い空間を壊すように口を開いたのは蓮野だ。
「彼方…いきなりごめん…」
俺はその言葉に多少のくすぐったさがあるのに気付いた。
蓮野の今の表情が気になりすぎて顔を上げる。
「ッ…!」
そこには顔を左に逸らしてる蓮野の姿があった。
その顔はいつもの蓮野からはまったく感じない愛らしさがあった。
この時の蓮野を見て俺は初めて蓮野に対して可愛いと思った。
失礼な話だが許して欲しい。
蓮野はいつもは俺に対してはこんな表情はしないのだ。
いつもは無邪気な笑顔をただ見せてくれた。
そんな蓮野が、こんな表情をすれば可愛いと思うのは当然だろう。
蓮野は普通に見れば可愛いんだし…。
いつもは何とも思わない蓮野の顔を俺は無性に見たくなる。
綺麗に整えてることがよくわかるショートヘアー。
不快に思わない丁度いい金色に光る髪の毛。
リップが丁度よく塗られてる事が分かる唇。
少しつり目な茶色の瞳はとても綺麗だった。
程よく整った顔、それに加えやりすぎていないナチュラルメイクはその可愛さ、色気さをアップさせている。
スッピンでも十分可愛いと思うけどな…。
などと俺がジロジロと蓮野を観察していると…。
「彼方…」
蓮野が俺の顔へと視線が戻る。
俺は少しピクんと体が動く。
「な…なんだ?」
「返事はまだいい…」
蓮野はもじもじしながら答える。
「なんで…?」
「それは、いきなりすぎたからゆっくり考えて欲しいっていうか…」
「もしかして今日家に呼んだのって告白のため…?」
俺が恥を忍んで聞くと蓮野は無言で、こくりと頷いた。
やばい…俺今どんな顔してるかわかんねぇ…。
あ…後まだ一つ聞かなきゃ…。
彼方が口を開こうとしたがその前に余波が答えてくれた。
「返事は…夏休みに入る一日前…学校の屋上で…」
蓮野はこちらの顔を見ずに答える。
その時は、屋上…んなベタな…、とかそんな茶化す余裕すらなく「わかった…」と返事した。
その後はただの雑談…なんて出来る訳もなく俺は不自然に蓮野宅から逃げ、家へと帰った。
蓮野には、すぐそこまで送ろうか?、と聞かれたが断った。
正直こんな状態で話せる気がしない。
そして、俺はその日の帰り、スキップして帰った。
読んでくださりありがとうございます!
メインヒロインの不在が続いてますねぇ…。




