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ジジツ破カクレンボ

 人は案外、周りを理解しているようでしていない。だから、解決できるはずの事も解決できないでいる。

 勿論、それは当然の様に等しく皆馬鹿だからだが、度を越せば金で何でもするクズだって世の中にはごまんといる。

 もしかしたら、ほぼ全員が金のためならリミッターがいともたやすく外れるかもしれない。

 それとも、元々リミッターなんてないのかも。



 季節が巡り巡っていくこの日本では、四季折々で自殺志願者の数は違ったりする。

 それを身をもって知っているシニタガリの商人はそれを特に憂うこともなく、日々淡々と店の営業を生暖かくこなしている。


「…ふふ」


 そんな商人は珍しく営業中にもかかわらず、テレビをつけてワイドショーを見ている。

 その見ているワイドショーには『実録 闇に消される自殺者たち』と題した特集が組まれていた。

 基本的には明るい話題を取り上げるこの番組だが、これまた珍しいこともあるようで誰もが知っているような富士の樹海やとある麓がモザイク処理されながら映し出されているが、そんなのはこと現代においては何の意味も持つことなどなく、ただの鐘と時間の無駄使いだ。

 しかし、モザイクで効果がないこともない。ただの自殺スポットを映し出すだけでそこで自殺する人の割合が一時的に増加する傾向がみられるが、モザイクをかけることによってより増加すると言われていたりもする。

 その理由が、若者のちょっとした好奇心。

 モザイクの先にはどんな景色が映っているんだろう。そんなくそみたいでバカみたいなユルユルな考えが、自殺者を靖一つになっている。

 それを含めてこのワイドショーを見ていると、なかなかに滑稽で今の商人の様に笑えてくる。

 なにせ、簡単に言ってしまえば良かれと思って放送している内容が間接的な殺人になっていることを知らないで作っている連中がいることが分かってくるからだ。

 

「がー、面白い。そこら辺のつまらなくなったバラエティーよりも数倍面白い」


 湯気が立っているアツアツのお茶を飲みながら商人は悠々自適にテレビを見ていた。

 すると、そこにタイミングを考えもしない客兼自殺志願者が尋ねてくる。


「いらっしゃいませ」

「どうも」


 見てくれは何ら普通のおじさん。

 土曜日の今日が休日なのか、スーツの類の服装ではない。


「おじさんは、このお店がどんなところか知ってきた?」

「当たり前だ。バカにしているのか?」

「いやいや、馬鹿にしてますよ」


 何食わぬ笑顔で商人はおじさんに言う。

 なぜ、おじさんがこんなにも攻撃的なのか商人にはいまいち理解できなかったが、きっとこの年代の人の一部にみられるあれだろう。


「それで、なんで自殺なんかを」


 商人の商売スタイル。これを崩すわけにはいかなかった。


「だれが、貴様なんぞに」

「えー、じゃあ。家で扱っている商品はうれませーん。そこら辺で、のたうち死んでくださーい」


 盛大にバカにして言う商人だが、さっきの様におじさんが攻撃的に何か言ってくるわけではなく逆に余裕の笑みで鼻でならす。


「…ふ。そんなこと言っていいのか? ここの店が警察にしられたらどうなるか」

「別にいいですよ? たかだか警察に見つかっても」


 それを商人の虚勢とでも勘違いしたのだろう。おじさんはまだ余裕でいた。


「そんな馬鹿な事信じるとでも思ったか?」


 内心、何この急展開。と、考えつつも商人はおじさんの相手をする。


「じゃあ、実際に警察にいってくれば? 百聞は一見にしかずって言葉を身をもって体験するよ」

「…そうか。そこまで強情だとはな」

「え? 何? 何も買う気ないなら早く帰ってほしいけど」


 どう商人が効いた瞬間だった。


「ふざけるな! なぜ、お前のような奴が」


 おじさんが唐突にズボンから刃物を取り出す。


「ふはは! これで刺せばお前を! お前を!」


 今にも殺しかかろうとした瞬間。


「警察だ!」


 扉が勢いよくあき、一人のスーツを着た男性が銃を構えて入ってきた。


「…警察だ? なわけあるか。まず、警察が単独行動とか馬鹿だろ」


 意外に冷静なおじさんがそう言う。

 勿論、商人をおきざりにして。


「国家機関を馬鹿にするなよ」


 そのままスーツの男は刃物を持ったおじさんをいともたやすくとらえてしまう。

 そうして、外で待機していた仲間に連行させる。

 警察が単独行動などするわけがない。


「ご協力どうも」


 全ての事があっという間に終わった後。

 スーツの男に商人がそっと耳元に囁く。


「いえいえ」

「ちゃんと、世論を煽れるような物的証拠と証言。さらには偽造した男のあるはずもない過去の罪の証拠。ちゃんと、ここに入ってますから」


 そう言って、商人はスーツの男に黒いビジネスバックを手渡す。


「こちらもちゃんといただいている分は働きますよ」

「今回は、お客さんのめずらしい注文に付き合ってくれてどうも」

「けいぶー!」

「…おっと、俺は是にて」

「またねー」


 そのままスーツの男はお店を出て行った。


「いやー、大変だった―」


 商人はそう言いながらまた、椅子に座りテレビを見始める。


「それにしても、今回はちょっと出費が多いかも」


 手元にあるスマホを見てみると、警察を動かす 500万 と箇条書きで書かれている。


「てか、なんでこんなのがよかったんだろう。最後は自分から死刑でって。理解できないなー」


 今回の客は、この世界に生きる意味を持たないと粋がった上司に騙された無職の警察マニアのおじさんだった。

 出世間違いなしだったのが、たった一人の上司のせいで白紙になり、その問題が悪循環にはまり会社側がおじさんのクビを宣告した。

 そこで、おじさんが提案してきたのが今のような最後。

 おじさん曰く、テレビで報道されて自分の素性がばれてその上司の悪行が巡り巡って世に広まればいいと考えていたらしいが、商人はそれをしない。 

 その上司の悪行がばれていないのは、その上司が頭の切れが抜群にいい人間だからだ。おじさんの様に人の言うことを何でも鵜呑みにする奴が、そんな頭のきれる奴や暴力で人を支配できる人間をさばいてはいけない。そう、商人は考える。

 だから、商人にはただのバカ事にしか思えない。

 それは今でもそうだ。


「ま、黒字は黒字だしいっか」


 そう言って、スマホ画面を閉じて商人はまたテレビを見始めた。

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