アス破ドコニ
なんとなく生きている人生。
妥協の連続で正直つらい人生。
他人に見下され続けている人生。
生きているのがつらいよね。なら、一度だけ死んでみない。
「るんるんるん♪」
夏は過ぎたが、残暑が厳しい今日この頃。
店内の冷房をガンガンに効かせ、省エネ撲滅運動を行っている商人は、今日も今日とて平常で異常な一日を過ごしていた。
「さーて、今日もお得意さんには納品終ったし後は、単発のお客さん待つしかないよなー」
ちりんちりんと、季節外れの風鈴が絶妙に心地よい音を奏でていると、今日もまた一人。自殺願望者がお店に足を運んできた。
「おー、いらっしゃい」
「本当にあったんだ。こんな店」
「その反応あきちゃったな。何か、別のリアクションしてくれませんか?」
「いきなりですね」
「いいじゃん。これからどうせ自殺するんでしょ。恥かいたって」
「今来たばっかりの客に大層なこと言いますね」
つかつかと、お店に入ってきたのはそこら辺に居そうな何の面白味もない男子大学生。特に洒落ているわけでもない高い服を身に纏って、モテようとする。
少なくとも、商人は大学生全体を嫌っていた。だからか、露骨に雑な接客をする。
「大層なこと言っても大じょーぶ。個人経営だから、何やっても言っても潰れはしないんだよー」
「客が金を落とさなかったら、何れは経営難になって潰れますよ」
「落とさないことなんてないから、大丈夫だよ。それよりも、君は何しに来たの? 自殺志願者」
「自殺道具を買いに」
「なら、そこら辺の奴かって帰れば」
商人は、気取った大学生を相手にするのがよほど嫌なのか、いつもとは違いすぐにレジカウンター内に入り、くるくる回る椅子に座ってくるくる回っている。
「そーいえばさ、君はなんで死にたいの?」
急に無言で商品を選び出した大学生を、気にしてか商人が話しかけた。
「それは、人生に飽きたからですよ」
「あら、贅沢な理由」
「損なんでも無いですよ。世界の腐った政治に、金だけのこの世の中。それに、夢をかなえることのできない世界。そして、何もない自分の人生に飽き飽きしましてね」
「そうだねー。世の中、金さえあれば夢だって叶えられるし、飽きることなんてないよね」
「そうですね。そんなことを考えてたら、本当に飽きちゃったんですよ。あー、なんて無駄な人生だってね。でも、不思議と嫌にはならなかったから、多分、飽きたって言葉が合うんですよ」
大学生は気取るのをやめたのか、自称気味に苦笑いをする。
「この世の中。金、金、金。夢見る今日も明日もどこにもない。君はアレだね。今日を頑張ってもまたやってくるのは、輝かしい『明日』じゃなくて、何も変わらない『今日』をずっと過ごしてきたんだね。そしてそんな、無限ループに飽きた。そう言いたいんだね」
「…恥ずかしながら正にそうです」
「んじゃ、死んでもいいんじゃないかな。君が今からする自殺はそんな無限ループから抜けられる一つの方法だ。恥じるな。恐れるな。自殺は正しい道の一つだ」
「初めて聞きましたよ。そんな考え方」
「商売上こうなるんだよ。それで、どれかってくの」
「それじゃ、これで」
大学生は、ロープを買って何も言わずそのまま帰って行った。
「しまった。また一つ名言を残しちゃった」
商人は、一人になった店内で、一人呟きながら、くるくると椅子に座ってまた回り始めた。