ユメ破ジサツ
夏休み。
日本全国の学生が待ちに待った長期休暇。
全国の少年少女は一体、何を期待して待ちに待っていたのでしょう。
夏の日差しが店内の温度を急激にあげる今日この頃。
冷房をつけようが日差しが涼しさを妨害している。
「あーつーいー」
店内にある椅子に座りグルグルとまわっている商人。
「もう、いっそのことドライアイス全身装備しちゃおっかな」
一瞬の涼しさのために一生をダメにしようとする。
しかし、商人はそれをやってのける。
痺れもしなければ、憧れもしない。
ただの危険行為。
「あーちゅーいー」
時間は有限ではあるが、商人にとってはどうでもいいらしく、だらだらと椅子に座って回っている。
そんな時。
コンコン。
入り口からノック音が聞こえ、商人が立ち上がり入り口を開ける。
「あ、あのぉ」
商人が入り口を開ければそこには。
「えっとー。どうしたのかな? 迷子かな」
背丈は成人男性の腰よりもちょっと高いくらいの小さな女の子が立っていた。
さすがの商人も、これには動揺した。
「お家の電話番号とわかるかな? あ、パパかママの携帯番号でも」
そんな商人の問いかけには答えず、少女は言った。
「ここのおみせ、じさつするどうぐがあるってほんとう?」
少女の言葉に目を見開き驚く。
「…それ、どこから」
「えっとねぇ。ぱぱとままがおうちではなしていたの。わたしをどうにかしてじさつにーって」
「……追い込むってこと。こんな小さな子を」
商人はあまりの衝撃に言葉を失いかけた。
今のこのご治世のことだ。
様々な理由で、自殺を望む者は後を絶たない。
「それでね。わたし、しななきゃって」
「それは、どうしてかな?」
あくまで、普段通り。
商人は楽しく遊ぶ子供を相手取るように話を聞く。
「だって、わたしがしんだら。ぱぱとままのやくにたてるんでしょ」
「…っ!?」
商人に、吐き気のような気味悪さが襲ってきた。
「それでね。ぱぱとままがわらえるなら。わたしね。じさつするよ」
子供の純真無垢な心に出来た、修復できない深すぎる傷。
商人の目の前にいる少女はそれには絶対に気付かない。
「でも、それは」
「だめなの? ぱぱとままのためなのに」
商人は口ごもる。
なんて説明していいのか、まったくわからないからだ。
目の前にいるのは年端もいかないただの少女。
そんな、少女をどう説得しろと言うのだ。
商人は、普段は使わない脳をフル回転させ考える。
そして、一つの回答にたどり着く。
「えっとね。今はまだ自殺しちゃダメなんだよ」
「なんでぇ?」
「それはねパパとママがちょっとしか喜ばないからさ」
「ちょっとしかよろこばないの」
「うん。だから、今はまだ自殺しちゃダメ。我慢して、我慢して…。そうだな、十年くらい経ったら自殺してもいいかな」
それは、付け焼刃にしか過ぎないことぐらい商人にもわかっていた。
しかし、商人はそれ以上にこの少女の命を1日でも長いものにさせてあげたかった。
「そしたらわたし、おっきなおねーさんになってるね」
「うん。おっきなお姉さんになったら死んでも大丈夫だよ。そうすればパパとママも物凄く喜ぶよ」
「ほんとう!」
「本当さ」
「じゃあ、わたし。まだじさつしない!」
「パパとママにどんなことをされたり、言われたりしても我慢できる?」
「うん! わたしできるよ」
「そっか。えらいえらい」
商人は、気分が最高に悪くなっていた。
商売と言えど、さすがにこんな小さな子に商品を売るわけにはいかない。
将来の可能性の塊だ。醜いクソみたいなことしか考えられない大人の犠牲になることはない。
しかし、この少女の自殺は避けられないだろう。
きっとそう言う、天命なのだ。
「じゃあ、おっきくなったら、またここにおいで」
「わかった!」
「よし。もう今日は帰るんだよ」
「うん。ありがとう、おねーさん」
「あはは。またね」
「じゃあねー!」
少女はそのままそのまま帰って行った。
その後ろ姿はただの純真無垢な女の子。
「…お姉さんだって」
商人は、小さく笑う。
だが、すぐに笑顔は消える。
「これは時代のせいなのかな。…本当に、時代のせいなのかな」
その日。
商人は珍しく、日中にお店を閉じた。