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さざめき  作者: min
第二章 兎
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懺悔

苦しくて、悲しい恋。

 私は昔、兎でした。


 兎であるのに、狼と仲良しでした。

 もっと平たく言えば、恋人でした。

 長い間何もなかった。

 ただただ平和で、安らかであり、この幸せは永久のものだと思っていた。


 今ならわかる。永遠のしあわせなんて、ありはしない。


 世界は、やがて壊れ始めた。

 太陽が光の触手を伸ばし、植物を責めた。

 樹木はそれを庇おうと腕を伸ばし、結果、植物を絶滅の寸前にまで追いやった。


 ギリギリまで飢餓を耐えた獣は、一番愛おしいものから順に喰らい尽くしていった。


 それは、私の狼も例外ではなかった。

 日に日にやせ細る体。

 私は、それを見たくはなかった。

 きっと、狼はギリギリまで我慢する。

 我慢して耐えきれなくなって、自我がなくなって私を食い尽くすだけならいい。


 それだけなら、納得できる。

 だって、世界が乾いてる。

 一個人である私たちが耐えきれるはずがない。

 正直、私も、少しまずい。

 そろそろ限界を迎えるだろう。


 けれど。


 狼は―ロウは私と違って、我慢強くて、カッコつけるような可愛い人だから、きっと耐え抜こうとするんだろう。

 ロウは、ただカッコつけるだけの馬鹿じゃなくて、ちゃんと努力もする、本当にかっこいい人だから。

 だから私が心配なのは、ロウが、―私を残して逝ってしまうんじゃないか、ということ。

 ロウは、半端ないくらいカッコつけるから。

 だから、カッコつけて、先にごめんな、とかいって、逝っちゃうんじゃないかって。

 だから、言った。


「私を食べて」


 私を食べて。

 私を殺して、あなたの手で。

 そう、言った。

 あなたに殺されるなら本望だった。

 乾き続け、癒しと潤いを求める世界にこれ以上生きたところで、どこかで喰われてこと切れるだろうことは容易に想像がつく。

 だったら、せめてあなたの手で眠りにつきたかった。

 それに。


 ―独りになりたくなかったし。


 そういう思惑もあった。

 というか、そういう想いが全体のほとんどを占めていた。

 だって、ロウのいない世界なんて、つまらない。

 味気なくて、きっと、私が私じゃなくなる。

 狂ってしまう。

 だから。

 だから、あなたの手で、私を眠らせて。

 けれど、あなたの手を血で染めるのは、私のだけでいいから。

 だって、悔しいじゃない?

 あなたの手に私じゃない他の匂いが染みつくなんて。

 あなたの全てを、私にしてしまいたい。

 あなたが、息を引き取るその瞬間まで、あなたを私で染めてしまいたい。


 だから。


 だから、痛みは、甘い刺激だった。

 徐々に白くなる視界も、喜びだった。

 あなたが。

 私だけを、映してくれる。

 あなたの世界が、私と、あなただけになる。

 それは、喜び以外の何物でもなかった。

 けれど、最期の瞬間、あっ、とひらめいた。

 私は独りじゃないけれど、彼は独りになってしまう。

 彼は見かけによらず寂しがり屋だったから。


 ―私は残酷だ。


 私を喰らい、飢えを満たした後は独り寂しく死んでいけと宣言したのだ。

 ああ。

 語弊がある。

 私はあなたを愛している。

 愛している。

 愛してるから、だから、私だけじゃなくてもいいよ、というべきだったのだ。

 私以外にも、誰かを愛していいのだと。

 私ではない誰かを、傍らにおいてもいいのだと。

 言ってあげるべきだったのに。

 私は言えなかった。

 愛していたから。

 愛していたら、むしろ、言ってあげるべきだったのに。


 さようなら、って。


 さようなら、愛しい人。

 私以外の誰かとよりそって、この恐ろしい世界を力の限り歩んで?

 そう、言ってあげるべきだったのに。


 もしくは、待つべきだったのだ。


 小賢しい真似はやめて、二人で大人しく、破滅するときをゆっくりと。

 世界の波にのまれて、飢えに苦しみながら、倒れてしまうその時を。

 二人で寄り添って、ギリギリの限界をこえてもそれでもなお共に。

 …ああ、私は、ただの臆病者だったんだ。

 臆病じゃなかったなら、カッコ悪くなった自分に臆することなく、あなたのそばに居続ける事を堂々と選ぶことができたはずだから。

 もしくは狂っていたの?

 私の愛情は、すでに歪んだ狂気になっていたの?

 わからない。

 わかってはいけない。

 わかりたくない。

 ただ、一つだけ言えることは。


 私は、我が身可愛さにあなたを裏切った、罪深き女だということ。


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