エピローグ そして獣は幸せを抱きしめる
なんだかよくわからないけどすっごいことになった。
―秋水架也と由奈が付き合い始めたらしい。
しかも物凄くらぶらぶ。
僕の前だろうと誰の前だろうと公衆の面前だろうと、由奈はともかく秋水のほうはむしろ由奈が俺のモノっていうことがアピールできていんじゃね?と言わんばかりにらぶらぶらぶらぶしている。
でもま、秋水が一方的に由奈を好きなように見えて、結構由奈も秋水を愛しちゃってるんだよね。
前に秋水が女の子と話してたら、
「私、そういうの見るの嫌っぽいから。」
とだけ言って、やるべきことはやった!とでもいうように一度だけ力強くうなずいてその場を去ろうとした、という事件があった。(無論、去る前に「もう、由奈は可愛いなぁ」とか言いながら秋水が由奈を抱きしめたが。)
他にも「原谷さんってすっごく愛されてるねー」といった生徒Aに対して「うん。私も大好きだけど。」と由奈がさらっと爆弾を投下した事件とか(これも「俺の方が愛してるよ」とかなんとか言いながら物凄くベタベタした。)色々あるが、由奈のそんな微妙な感じを一例で紹介するならこれだろう。
***
ある昼下がり。女子生徒との会話にて。
「ねえ、原谷さん。中瀬ってかっこいいと思う?」
「客観的に見たらかっこいいと思う。でも、私はどっちかというと可愛いと思う」
「じゃあ、水田くんは?」
「かっこいい顔だとは思う」
「じゃあ、…架也くんは?」
その瞬間に、今までのどこかぼんやりした笑顔から一転、可愛らしい花開いたような華やかな笑みを浮かべたと思うと、人差し指をそっと唇にあてて、由奈はちょっと恥ずかしそうにはにかみながらこう言ったそうだ。
「ひみつ。」
曰く、みんなが秋水の魅力に気がついたら嫌なのだそうで。
そして、勿論それを聞いた秋水は(以下略)。
***
「中瀬」
ぼんやりと頬杖をついて窓の外を見ていると、誰かに声をかけられた。
「…九条さん?」
意外な人だった。
その意外な人は、空いていた隣の席に腰をおろして、椅子を僕がわに向けた。
「…図書室、行かないの?」
どことなく不機嫌そうに、頬杖をついて問いかけた。
僕は、ぎ、と椅子をこころなし彼女の方に向けて、
「その方が賢明だね」
と言った。
「今行ったら間違いなく砂糖吐くよ?」
「砂糖?」
怪訝そうに聞き返す。
「もしくは砂?」
「は?」
「何にせよあてられちゃうよ、ってこと」
何せ終始あのいちゃつき具合だ。あれはもう目の毒を超えて公害な気がする。しかも、一向に慣れない。生徒会に訴えてやろうか。
「ふうん……」
じ、と見つめてくる。
何をしたいのだろう。九条藍は。
ただ、単純に見つめてくるだけで。
それ以外、何もしてこないのだけれど。
「もう少しいるの?」
「気分次第かな」
「そう。…でも、もう少し帰らない気分でしょ?」
奇妙に凪いだ気分。
熱い、どこか冷めきった熱が、絡む。
「そうだね」
「そうでしょ?」
「うん、そうだね」
―ぱきん、と。
そのとき、鎖が折れる幻聴が聞こえた。
これにて完結!!
いやー、最初と最後の落差すごいですね。悲恋連打からのリア充ラストとか一体だれが考えただろうか。私も正直びっくりした。
ちまちま更新とか言ってたのに唐突にドカ上げしてしまいました。新作との落差に耐え切れなくなったんです…。ドシリアスとほんわか同時進行ってちょっと精神的にきつかった…。
最後まで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。ドシリアス展開がお好きな方は、またいつかふらふらーっとすごくかわいそうな感じのやつとか書くかもしれませんのでその時はよろしくお願いします。




