そういうの、ズルいと思う。
「やあ、由奈」
「こんにちは、架也くん」
にやりと、口端を引き上げたサディスティックな笑み。彼は何故かいつも、会話の初っ端からこんな顔をする。
―しかし、そこは諦めて。
普通に返した笑顔にそんな物騒なものを向けられて少しだけくじけそうになるが、綺麗にスルーして再び本に目を通した。
だが、その次の行動が、奏とはあまりにも異なっていて、どうにも対応ができなかった。
ふに。
頬を、つつかれた。
「ひゃぁ?!」
酷い。思わず変に高い声を出してしまったじゃないか。しかも一瞬遅れて。ああ嫌だ。鈍感だ。鈍い。そういえば奏にも鈍いと言われた気がする。どうやら汚点ではないようだったけれど。救いといえばそれが唯一の救いかもしれなかった。
「あはは。おもしれー」
頼むから棒読みっぽい笑い方はやめて。しかも明らかに苛めっ子な笑みを浮かべないで。
「お、面白いじゃないでしょ。なんでっ―」
「いーじゃん。減るもんじゃないでしょ?」
そう言ってむしろ激しくふにふにふにふにつついてくる。
―もう怒った。
むに。
「仕返し。」
そう言って両方の頬を軽く引っ張ったら、彼はぽかんとしていた。
すぐに離したのに、何故かしばらくフリーズ。
なんだかだんだん不安になってきてしばらく様子を窺っていると、不意に笑いだした。
「…あはははははははははっ!」
腹を抱えて。心底楽しそうに。
勝気な瞳。くるりとこちらを見て。
それは、無垢な子供よりもさらに無邪気な笑み。
「―ほんと、おまえって可愛いなっ」
とくん。と。
そのとき、心が揺れた。




