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さざめき  作者: min
第一章 狼
3/34

わすれるなんてひどいじゃないの

ひらがなサブタイ=主人公は狂人

と思いながらお読みください。電波っぱー

 そう。

 僕はいつだって君だけを見ていた。

 いつだって君だけを見ていた。

 ずっとずっと、君だけを見ていたのに。

 けれど、君は覚えていない。

 おぞましい過去を。

 狂ってしまった僕を。

 忌々しい約束を。

 それから―あんなにも美しい感情を。

 僕は忘れてなかった。

 全然忘れてなんてなかったのに。

 僕は何一つ欠けることなく覚えているのに。

 僕は何一つ欠けることなく覚えているのに。

 僕は全て全て覚えているのに。

 ―君は何一つ欠けることなく忘れてしまった。

 その方がいい―そんなこと解ってる。

 その方がいい―けれど、そんなの納得できない。

 聞きたいんだ。

 聞きたいんだ、一つでいいから。

 一つだけでいいから、教えて欲しいんだ。

 君に。


 ねぇ、兎。

 どうして君は最後にあんな約束をしたの?


***


 六月の帰り道。僕は君に出会った。

 酷い雨で、傘もろくに役に立たないくらいだった。

 けど、そんな中に、君はいた。

 いなきゃよかったのにね。

 いなきゃよかったのにね。

 いなきゃ捕まる事もなかったのにね。

 いなきゃ泣く事もなかったのにね。

 いなきゃ恐怖に叫ぶこともなかったのにね。

 いなきゃあんな事になることもなかったのにね。

 けれど、あの時の僕はそれすらも分からずに、ただただ逢えた事だけを喜んでいた。

 ただただ逢えた事が嬉しかった。

 だから言った。


「待ってよ」


 笑いながら。

 雨に濡れながら。

 駆け足で。頑固に傘をさしている君の横まで走って。

 そして。

 そして、兎、と続けようとしたとき。


「…なんですか?」


 そう言って後ろを振り返った君は。

 冷めた目。そのなかに潜む困惑した色。

 態度だけで分かった。

 君は、暗に「誰?」と聞いていたんだ。

 君は知らなかった。

 君はもう知らなかった。

 君はもう君じゃなかった。

 だから、こう言ったよ。

 だから、こう言ったよ。

 君を壊さないように。

 君を守れるように。

 だから、こう言ったよ。


「人違いだったよ、ごめんね」


 笑顔で。


 ぱしゃぱしゃと水の跳ねる音。

 ああ、水たまりを踏んだんだ。そう、頭の片隅で思った。

 しばらくして、人気のないところで走るのをやめた。

 自分が酷く冷静になった。

 呼吸が荒いな。

 目に水が入りそうで入らない。視界がぼやける。

靴の中に水がしみ込んで、もう足先には感覚がない。

はあ、とため息を一つついた。

 逢えた瞬間に終わる恋って、切ないね。

 最初から叶わないと解っているのに望む恋とどっちが哀れだろう。

 今更のように体の芯が冷えてきて、逆に冷たさがちょうどいい。

 胸の中心が、きゅっと痛い。

 頭の中はどす黒く、目の前が物凄く熱いような気がするのに腹の底は冷え切って。

 ああ、僕は気づくべきだった。

 ―君を壊さないように。

 ―君を守れるように。

 そんな覚悟なんて、これっぽっちもなかった。

 歯車は、すでに狂いだして、全速力で回りだしてた。

 …気付かなかっただけで。

 はは。

 結局僕は、同じ過ちを繰り返してしまっただけだった。



 はは。


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