派手でいたかった鳥
「君が好きなんだ」
孔雀―。
そう告白されて「調子のんな!」って一喝して蹴り返した事は数知れず。
根暗な鴉なんて大っ嫌い、っていうか正直毎日キモいつかウザい、と思っていたが、最近のあいつはなんだか違う。
前すれ違う時に「こんにちは」って爽やかな笑顔で挨拶された。
あまりのことにドン引きした。
根暗だったのは事実。しかし、最近のあいつは爽やかだ。
と、いうことで尾行してみる。どうやら図書室に入り浸っているらしい。
図書室…。やはり根暗か。
そう見くびっていた。
行ってみてびっくりだった。
由奈、と柔らかに名前を呼び、とろけるような笑みを浮かべる彼。
奏、ときょとりと彼を見上げる女の子。
明らかに目の保養な光景だった。
彼の漆黒の髪が、闇のような瞳が、綺麗に見えた。
彼女のつやのある黒髪が、澄んだ瞳が、可愛らしい容姿と相まってお姫様のようだった。
彼女は彼の話を本のページをめくりながら聞いていた。彼は時折その本を奪って、目を見て聞いてよ、と拗ねる。それに彼女は苦笑する。
温かな雰囲気。
柔らかな雰囲気。
何故そんな風に笑えるのだろう。
―彼女は兎のはずなのに。
―彼は鴉のはずなのに。
生まれ変わりという業を背負わされた二人は、しかし平和そうに笑っている。
兎と鴉はこんなにも仲が良かったのだろうか?まるで遥か昔から知っていたかのように寄り添って、姉と弟のようにじゃれあって、無邪気に笑う。
「…ああ、九条さん」
少し気まずげに声がかけられる。今の名前でまともに呼んだのは、これが初めてではなかろうか。瞳の奥には柔らかな炎。彼は今でも私を愛している。―はず。
「今まで色々と、ごめん、ね?」
目を細め、すまなさそうに笑った。
酷い。
前まではそんな優しい目、しなかったくせに。いつもいつも余裕がなさそうなつりあがった目で欲しい欲しいとひたすらに叫んでいたくせに。
彼の傍にいた彼女は驚愕に目を見開く私をつい、と見やり、ふわ、と笑った。
ばん、と私は図書室を飛び出した。
なんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなの!
鴉はこんなに温かな目を向けてくれなかった。
いつもいつも一方的に押しつけて、それだけだった。
だから私は無関心でいられた。
なのに―。
「どうして、…カッコ良くなってんのよっ。ばかぁ……」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
壁に縋って、声を殺して泣く。
鴉。
私の半身。
私が誰よりも見下していた、醜い鳥。
だってそうじゃなければやっていけなかったから。
彼は自由を手にした。けれど、私は自由じゃなかった。
自身が一番美しいのでなければ、虚しくてやってなどいけなかった。
けれど。
鴉は美しく、
―兎は愛らしく。
二人は楽しげで、
―私は独り。
「……やだ、」
どうして。
―どうして。あなただけは、わたしだけをみてくれるとおもっていたのに。
「やだよぉ……」
羨ましかった。どこまでも飛んでいける翼。私には飾り物しか残らなかったから。
好きだった。何をしようと、どんなに辛くあたろうと私の傍にいてくれる絶対的な愛情。否、…執着。それに、甘えていた。
胸をつかむ。
痛い。息がつまる。脳が揺れる。涙が止まらない。震えも止まらない。
どうして、…彼は彼女を選んだ。
半身である私でなく、全くの他人の彼女を。
―彼女が憎い。
それ以上に自身が恨めしい。どうして鴉をさっさと縛ってしまわなかったのか。誰かに奪われるくらいなら、いっそ。
ああ、…どうして。
目が眩むほどの絶望。
今となっては平和すぎた愛しい記憶。
今耐えなければならない、絶対的な孤独。
私はもう空っぽだ。
どうしよう。
どうすればいい。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どうしてだろう。
―どうして私はいつも愛されない。




