はっぴーえんど?
ロウが、狂ってしまったようだ。
彼氏と別れたと聞いて、そう、と答えたらナイフでいきなり切りつけてきた。
一度目は反射で避けてしまったが、殺すのが望みなら素直に殺されようと思って、二度目は無抵抗でいた。無抵抗でいたら、彼女はナイフを打ち捨てた。
―殺せない。
泣きながら言う彼女に僕は問いかけた。
―じゃあ、君はどうしたいの?
***
殺せなかった。
どうしても殺せなかった。
私だけの兎。
私だけの兎。
私だけを愛さなければいけない兎。
なのに、きっと彼は他の誰かを愛してしまう。
私ではない他の誰かを愛してしまう。
「殺せない」
ナイフを投げ捨て、震える声で呟く。膝をぺたんとついて、すすり泣く。
ああ、どうして彼を拒んだのだろう。
彼は最初から私だけの兎で、私をたくさん愛してくれたのに。
もう、彼は私を愛してくれない。
「じゃあ、君はどうしたいの?」
不意に、声がして。
彼は血で染まる左腕を完璧に無視して、無事な右腕で私を引っ張り上げた。
抱き締めた。
もう、何処にも行って欲しくなくて。
ずっとずっと、私だけのものでいて欲しくて。
「傍にいて」
ずっと。
「ずっと傍にいて。
ずっとずっと離れないで。
ずっとずっと、私を愛して。
―お願い。お願いだから―」
私を、一人にしないで。
私を、置いて逝かないで。
お願いだから、ずっと、傍にいて。
「僕は…、」
彼は、躊躇うように口を開いた。
「きっと、僕は壊れてるよ」
それでもいいなら、傍にいるけれど。
髪を撫でてくれた手が、優しかった。
「壊れている」という意味が分からなかったけれど、彼が傍にいてくれるのなら、もうそれで、全てがどうでもよかった。
私は幸せだった。
初めて、ハッピーエンドを迎える事が出来たのだから。




