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さざめき  作者: min
第四章 兎と狼
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はっぴーえんど?

 ロウが、狂ってしまったようだ。


 彼氏と別れたと聞いて、そう、と答えたらナイフでいきなり切りつけてきた。

 一度目は反射で避けてしまったが、殺すのが望みなら素直に殺されようと思って、二度目は無抵抗でいた。無抵抗でいたら、彼女はナイフを打ち捨てた。

 ―殺せない。

 泣きながら言う彼女に僕は問いかけた。

 ―じゃあ、君はどうしたいの?


 ***


 殺せなかった。

 どうしても殺せなかった。

 私だけの兎。

 私だけの兎。

 私だけを愛さなければいけない兎。

 なのに、きっと彼は他の誰かを愛してしまう。

 私ではない他の誰かを愛してしまう。


「殺せない」


 ナイフを投げ捨て、震える声で呟く。膝をぺたんとついて、すすり泣く。

 ああ、どうして彼を拒んだのだろう。

 彼は最初から私だけの兎で、私をたくさん愛してくれたのに。

 もう、彼は私を愛してくれない。


「じゃあ、君はどうしたいの?」


 不意に、声がして。

 彼は血で染まる左腕を完璧に無視して、無事な右腕で私を引っ張り上げた。

 抱き締めた。

 もう、何処にも行って欲しくなくて。

 ずっとずっと、私だけのものでいて欲しくて。


「傍にいて」


 ずっと。


「ずっと傍にいて。

 ずっとずっと離れないで。

 ずっとずっと、私を愛して。

 ―お願い。お願いだから―」


 私を、一人にしないで。

 私を、置いて逝かないで。


 お願いだから、ずっと、傍にいて。


「僕は…、」


 彼は、躊躇うように口を開いた。


「きっと、僕は壊れてるよ」


 それでもいいなら、傍にいるけれど。


 髪を撫でてくれた手が、優しかった。

 「壊れている」という意味が分からなかったけれど、彼が傍にいてくれるのなら、もうそれで、全てがどうでもよかった。


 私は幸せだった。


 初めて、ハッピーエンドを迎える事が出来たのだから。




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