どうしてわたしをひとりにするの
鬱陶しかった。
だから惜別を望んだ。
けれど、彼は泣かなかった。
みっともなく泣いてすがりつくと思ったのに、彼は立ち尽くしたまま。
絶望していると思ったから放っておいたけれど、翌日からの彼の変わりように、私は呆然とした。
彼は、何に対しても今までより積極的になって、よく笑うようになった。
男子にも女子にも人気が出てきて、面倒見がいいのだという何処から出てきたのか知れない噂に引きずられるようにして友達がわんさか湧いてきた。
けれど、彼は相変わらずよく笑った。
誰もいない昼休みの教室で、一人静かに本を読んでいた。
前の五月蠅さからは考えられないほど静かになって、落ち着いた雰囲気が漂う彼は、元々の可愛らしい顔も手伝ってなのか女子からの人気がぐんぐん上がっているようだった。
彼氏と一緒に教室に行って、少しだけ彼をからかおうとした。
そうしたら、逆にからかわれた気がした。
少し影のよぎっている顔に、限りなく普通に近い笑みを浮かべて、彼は笑った。
その顔には苛立ちや恨みや嫉妬などは全くなく、空っぽ、という感想を抱くだけだった。
どう頑張っても、虚無以外は見いだせなかった。
戦慄した。
彼は、もう私を求めてはくれないのだ。
彼は、もう私を必要としてはいないのだ。
どうして?
私は狼で、あなたは兎だというのに。
もう、その絆さえあやふやになってしまって。
私はきっと、狂ってしまった。
私はきっと、狂ってしまった。
求めて求めて求めて求めて求めて求めて求めて求めて求めて求めて求めて求めて
私が思っている分だけあなたも求めて。
私が思っている以上にあなたは求めて。
独りにしないで。
もう、私を独りにしないで。
これ以上私を独りにしておかないで。
***
兎に求められ、その事実に酔った狼。
求められることに慣れてしまった狼。
つけ上がった狼は兎を試してしまう。
傷つけられた兎は壊れてしまう。
兎はもう誰も愛さない。
兎はもう狼さえ愛さない。
けれど、誰もその事が分からない。
狼は初めて恐怖する。
狼は兎に愛されなくなった事実に初めて恐怖する。
けれども壊れた兎は元には戻らない。
壊れた兎はけれども平凡な毎日を普通の兎として過ごす。
まやかしの笑みにだれ一人気付かない。
そして兎は擦り減っていく。
兎は演じ続ける。
けれど誰も気づかない。
けれども兎は終わらない。
兎は過去のトラウマから、自ら命を絶つことができなくなっていた。
狼は兎が壊れたことに気付けない。
そして狼は狂ってしまう。
狂った狼。
壊れた兎。
二匹はどうやって幸せをつかむのだろう。
狂った狼の狂ったのは治すことができる。
けれど、壊れた兎はどう足掻いても治せない。
幸せが訪れたとしても、兎にはきっとそれが分からない。
どうなるにせよ、兎は幸せになれない。
兎はまだ、自由になれない。




