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さざめき  作者: min
第三章 羽津
17/34

後日譚

 翌朝、一人の男の死体が川辺で発見された。

 男は浮気を疑われ、自らの恋人に刺されたらしい。男の自称恋人が出頭してきたため発覚したのである。犯行が行われた二日前に起きた女子高生の事件が関与しているのであろう、と警察は考えている。

 しかし、いくつか不可解な点がある。

 男は刺された後自ら河に飛び込んだらしいのだ。しかも被告の供述を信じるのであれば、被告は一度男の腹を刺したらしいのだが、男は被告のナイフを奪って再びその上からナイフを刺しなおしたらしい。そしてナイフを引き抜き、河に飛び込んだ。


 まずこれがおかしい。


 被告から逃げるために河に飛び込んだと考えることもできるが、男は既に被告から凶器を奪っていた。故に、もう逃げる必要はない。

 それに、男は先の事件で体中に切り傷を負っていたのだ。

 河に飛び込めば傷口が開いて命が危険に晒されるということは容易に想像できることだろう。しかもわざわざ刺さっていたナイフを引き抜くだなんて、死にたがっているとしか思えない。

 しかし不可解なのはここからで、検死が言うには男は自ら傷口を引っ掻いて、どうやらわざと傷口を開かせたらしいのだ。そして、男の死体の傍に寄り添うように流れついていたナイフは、どうも元々は件の女子高生が所持していた品であるらしかった。


 被告の供述をまるまる信じるのであれば、被告は例の女子高生の通夜に男が参加する際に付き添いとして同行し、その時に女子高生の棺からナイフをくすねたらしい。先の女子高生の事件で凶器が見つかっていなかったが、どうやら女子高生の制服の胸の内ポケットにしまわれていたらしい。

 そして「偶然」そのナイフを発見してしまった被告は「衝動的」に犯行を決意し、男を襲ったはいいものの男が急に河に飛び込んだので怖くなり、咄嗟に河にナイフを投げ捨てたらしい。どうしてその時救急車を呼ばなかったのか尋ねると、男の行動が理解できなくて怖かったのだと被告は告げた。確かに一連の男の行動は理解不能ではあるので、その供述は一理あった。


 だが、被告はすぐさま河にナイフを投げ込んだらしいのだ。


 被告が供述した犯行の現場から男が発見された現場までの距離は、決して近くない。

 人間はともかく、ナイフは軽くないし、浮かない。むしろ沈む。

 しかしナイフは男の傍へと流れついた。

 いや、流れ着くはずがない。だったら誰かが男の傍へとナイフをおいたのか?わざわざ河から拾い上げて?いや、そんなことはあり得ない。犯行現場の河はなかなかに深いのだ。川底に沈んだナイフを得るには潜らなくてはならない。わざわざそんな面倒をする輩がいるだろうか。

 ならば被告の供述が嘘であり、犯行現場にわざわざナイフを置いたのは被告であると仮定してみる。

 だが一体なんのために?被告は罪が発覚することを酷く恐れていた。そんな被告がわざわざ凶器を死体の傍に置くだろうか。それとも捨てたつもりだったのだろうか。しかし男が発見された現場は民家の傍であり、人目につかないとも言い切れない場所だった。いずれにせよ、不可解である。


 そして、何よりも不可解なのは男の死に顔だ。


 男は、酷く幸せそうな顔で死んでいたのだ。

 男は恋人にむけるような優しげな、甘い微笑みを浮かべていた。

 一体男に、何があったのか。

 この一連の不可解な事件は恋人の裏切りにより男が発狂した故の異常行動と結論付けられ、ナイフの謎は触れられぬままに闇に葬り去られた。

 男の親族は誰に言われるでもなく、ごくごく自然に男の棺に件のナイフをいれた。

 出棺し、火葬した後に見ると、棺に入れたはずのナイフが消失していたらしい。誰かが持っていったのだろうかと親族は訝しんだが特に気にすることもなく、一つの事件は多くの謎を残したまま、終わりを迎えたのだった。



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