「関係ない」と、心からそう信じていた。
ある日、忘れものをした。
でも、いつものように理奈から電話があるだろうと思って、別に何の心配をするわけでもなく、それどころか僕は呑気に寝ていた。
起きたら、付き合ってる彼女が怒ったような顔で待っていた。
「ねぇ、羽津。あんたの友達、すごく腹黒いわね」
「はぁ?…なんのこと?」
「とぼけないで。あんたが忘れ物した、ってあんたの携帯にかけてきたのよ。理奈って奴」
「ああ、理奈ね」
「浮気ね?」
彼女は、即答した。僕は溜息で堪えた。
「違うよ。手をつないで歩いたことさえないし」
彼女と僕との関係は、兄妹のように微笑ましい、健全な関係だ。
共働きで帰りが遅い両親。結構寂しい、と彼女は以前、一度だけ零したことがある。だから、僕はたびたび彼女の部屋に通っている。取り留めのない会話をして、頭を撫でる。彼女は子供扱いを嫌がるでもなく、嬉しそうに笑っていた。
「男はみんなそういうものよ。でも…否定するときに限って嘘なのよ!」
はあ、と再びため息を吐き出す。
この彼女はかなり嫉妬深くて、本当のことを言ってもこうだ。
―深読みしすぎている。っていうか昼ドラの見すぎじゃね?
「あのね。理奈はかなり年下だし、俺、別にそんな感情持ってないから。
…メール読んでみれば?そういう内容のやつ、全然ないから」
そう言って、ぽいっ、と携帯を放った。
しかし、彼女はメールを読みもせず、眉をぎゅっと顰めて、こう言った。
「…羽津。あんたは何とも思ってないかもしれないけど、むこうはあんたのことが好きよ」
「何を馬鹿な」
「絶対そうよ。もう会わないで」
それは薄々感じていた事だった。
あの温かな部屋の中で、時折理奈はちらりと恋慕の色を瞳の端に覗かせて、慌てたように隠していた。けれど、それだけだ。それだけ。他には何もない。
ていうか、理奈は物分かりがいいし、略奪愛とかには興味ないと思うんだけど。それに、僕よりもイイ男だって、簡単に捕まえられるだろうし。
そんなことを思いながらも、まあそろそろ会わないようにするか、とか考えて彼女の家に向かおうとした。
―けど、メールが来た。
『休日の学校で会ってみませんか?』
確かそんな内容で、屋上に集合だとか、何故だかそういうことが書かれていた。
理奈にしては変な提案だったけれど、まあいいか、と僕は学校に向かった。
そこで、理奈に殺されそうになった。
 




