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野良怪談百物語

作者: 木下秋

 この前、こんな夢を見た。



 夢の中で目覚めると、私は自室のベッドの上にいた。だから初め、私はそれを夢だとは思わなかった。


 目の前にはテーブルがあり、その向こうにテレビが見える。後ろを向けば大きな窓があり、そこからは空が見えた。


 油絵のような、黄色の空だった。何度も何度も塗り重ねたような、濃厚さがあった。しかし、私はそれを別段不思議だとは思わなかった。ただ眺め、姿勢を前に戻した。体が重く、起き上がる気がしない。


 前に向き直ると、先ほどそこには無かったものがあった。ベッドの上の、水色のシーツの上に、肌色の塊が隆起しているのだ。


 それはくすみがかった肌色で、大きさは手のひらに乗るくらい。裾の広がった、山のような形をしている。


 また私はそれを、不思議だとは思わなかった。ただ、触ってみたくはなった。艶があり、なんだか柔らかそうだ。


 私はそれを、じっと見つめる。動く様子はない。それ以上、大きくなる様子もない。


 私はその肌色の丘の裾野を、左手の人差し指と親指、二本の指で摘み、めくってみることにした。


 ペリペリペリッ、と音を立て、それがめくれると、内側の濃いピンクが見えた。



 それは、肉片だったのだ。




 それに気づいた瞬間、目を覚ました。




     *




 それに関連はしてはいないのだが、こんな夢も見た。



 私はある、大きな建物の前に一人で立っていた。それは立派な、歴史ある建物に見えた。中華風、もしくは沖縄の建築物風に見えた。屋根は外側に反り返り、赤や緑、金などといった色で鮮やかに飾られているのだ。


 私はいつも着ている、私服姿だった。そして、はっきりとした自覚があった。歩きたかったから、まっすぐ歩いた。そして、徐々に気付く。あぁ、これは夢の中だ。と。


 夢の中にいて、それが夢の中だと気づいたのは、おそらくそれが初めてだった。(これは夢だ。そして――私はここに――この夢の場所に、何度も訪れている――!)。そう思った。


 周りには、私と同じような観光客がいた。家族連れや、バスツアーで来たような老人たち。各々自由に喋り、騒がしい。カメラで写真を撮っている者などもいた。


 建物の中を通って左に曲がると、向こうに公衆便所のような小さな建物があった。しかし、周りは青いビニールシートに覆われ、周りには警備員のような、警察官のような人たちが辺りを調べていた。物々しい雰囲気が漂い、私はそれに近寄っては行けないと思った。すぐに引き返し、再び建物の中に戻る。元いた場所に戻る。


 “これは夢だ”と気づいた場所を通り過ぎ、大きな朱色の鳥居風の門を抜けた。そこにも観光客達はいて、談笑しあっている。目の前には見たこともない植物が生い茂っている。木が生えているのだが、その葉は細い。針金のような葉の先に、赤い点のような花(実?)を付けているのだ。


 遠くに、山々が見える。ここはどこなんだ……? そう思った矢先、あるものが目に入った。看板だ。



『◯◯県 ◯◯町 ◯◯……』



 なんと、住所が書いてあるのだ。


 私はポケットを探ると……それはあった。携帯電話だ。ボタンを押すと、いつものように起動する。私は、写真を撮ろうと思った。そして、この場で撮った写真は目覚めた後もきっと、残っているだろう。本気で、そう思った。


 アプリを起動し、その看板を写真でとった。(カシャーッ)。いつものシャッター音が鳴る。


 画面を見る。――うまく撮れていない。ピントが合わず、ぼやけてしまっているのだ。


 再び、看板に目をやる。――すると、その看板の文字が、先ほどまでははっきりとした書かれていたのに、その写真の中の情報が反映されてしまったかのように、ボヤけはじめたのだ。


 まずい――。私は急ぎ、シャッターを押した。何度も、何度も。しかし、写真を撮れば撮るほど、その撮った写真はボヤけ、看板もボヤけていってしまうのだ。


 ――視線を感じ、辺りを見回すと、周りで談笑していた観光客達が、全員こちらを見ていた。――無表情である。父親に抱かれた赤子ですら無表情で、親子揃って私を見ていた。


(あぁ……)


 世界が崩壊を始めた。私は気づけば、地面に顔を近づけていた。目の前には、コンクリートの地面がある。しかし、足は地についているのだ。足が地についているのに、顔の目の前に地がある。私の身体がおかしいのではない。世界がぐにゃりと曲がっていたのだ。


 コンクリートの地面に顔を埋めた。柔らかかった。まるで水に沈んでいくような、静かな落下感を味わった。そしてしばらくして――



 ――目を覚ました。



 住所は、すぐに忘れてしまった。

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