第一章 第一話
ここ、全国トップクラスの進学校であり、また、大企業や財閥の子息や令嬢が通う星宮学園の二年Aクラスでは、女生徒やら男生徒やらが私ー水無月 時雨ーの周りを騒ぎ立て、目の前に居る男生徒と話がろくにできない。
私はそのことにとてもため息をつきたくなり、無意識についていた。
「時雨?」
すると、男生徒が私の名を呼んだ。
優しさを含んだ、低く落ち着いた声。
その声は、私にとっては心地よくて。
心地いい声を聞きたいのに、周りがそれを許さない。
「何でもないですよ、雁屋先輩」
「翔でいいって言ってるのに………」
私が苗字で、しかも敬称をつけて呼ぶものだから、少し呆れたような声を出すのは目の前に居る男生徒。
星宮学園高等部三年の雁屋翔。
星宮学園生徒会副会長代理を務めている。
ちなみに、私は星宮学園生徒会副会長を務めている。
「それで、用件は何でした?」
私が真面目に問うと、雁屋先輩はため息をついた。
「え!?」
「もう一回言うよ。放課後生徒会室に集合ってハルが」
「生徒会長が、ですか?」
そう尋ねると、雁屋先輩は頷いた。
ハル。
本名霜月遥。
雁屋先輩と同じく高等部三年の先輩で、星宮学園生徒会長。とても無愛想で、口数は少ない。そんな人が雁屋先輩の幼馴染と聞いた時は、とても驚いたものだ。
私はあまり霜月先輩とは話したことはない、な。
聞きたいことがある時だけしか、話したことはない。
生徒会の仕事はきちんとするし、正確で一つのミスもない。すべてにおいて完璧で、少しの隙間もない。
でも、何故か霜月先輩の周りは独特な雰囲気が流れていて近寄り難い。
「解りました。放課後、ですね?」
「そう。じゃ、教室に戻るね」
そう言って去っていく雁屋先輩の背中には、痛いほどの女生徒の視線が当たっていた。
けれどそれを気にしないのが、雁屋先輩なのだ。