5話
ガタッ
自分の席の椅子を引き、座る。
「ふぅー」
そしてため息を一つ。
今日はいつもより早めに学校にやって来た。
昨日自分をハメた奴と仲良く登校をする気分にならなかったためだ。
早めと言っても数分程度。
いくらか席に座ってるとすぐに奴も登校して来た。
「ハロー!」
助信を見つけるやいなやすぐに助信の場所へご機嫌に向かう高橋。
どうやら今日置いてかれた事は彼にはどうでも良いらしい。
「で?どうよ?どうだった?」
サングラスをかけたご機嫌野郎は、より顔を近づけて来る。
「何の事?」
その顔が余計にご機嫌になりそうだったのでしらばっくれることにする。
「なんのことじゃねぇよー!お前のために頑張ったんだぜ俺?勿体ぶるのはいいから、どうだったんだよー?」
「上手くいったよ。今付き合ってる」
そう言うと高橋は大袈裟なほど驚いて見せた。
「うわーマジかよ。こんなことってあるんだな。すごい、嘘みたいだわ」
すぐに冷静になり頷き始める。
「だろー?まぁ嘘だけど」
「って嘘かよー。そんなくだらない嘘助信らしくないぞマジで。」
嘘だとわかると不機嫌になり始める高橋だが、突然表情が変わった。
「あ、わかったぞ、お前まだ怒ってんだろ?だからこんな寂しい仕返ししてきたんだな?悪かったよー」
もちろん悪びれのない様子で手を合わせ形だけの謝罪をする高橋。
昔から人に謝る時にまともに謝ったことのないやつだ。
「俺だから許してるけど他の奴だったらキレ出すやつもいるぞ本当に。」
相手が優しい女の子だから良かったものの、相手が悪かったら俺が告白した噂まで流れかねなかったはずだ。
「いや、他の奴にはしないよ。常識的に」
「いや俺にもその常識適応させろっつうの」
「無理です」
相変わらずムカつく奴だった。
……
昼休みになっても助信のプチ説教は続いていた。
「お前本当に昨日のはやっちゃいけない方の冗談だぞ!」
「わかってるって。もうしないよこういうのは」
そっぽを向きながらパンを食い、返事をする高橋。
もうしないというのは昨日と同じ行為をしないということであって、似たような事はきっとまたやらかす。
いつもがそうだからだ。
「お前はなぁー。しまいにゃ縁切らせてもらうぞ?」
割りと本気だった。
「またまたぁ」
能天気な高橋は全く本気にしていなかった。
「オイオイ喧嘩かぁー?」
すると第三者の声が参入してきた。
声の主を確認するとこの前の可愛い女の子ランキングをつけていた船木だった。
「なんだ?また女の子の話か?」
イライラしてた助信はつい文句口調で聞いてしまった。
顔も今まで高橋と話していたせいで戻っていなかった。
「おおー怖いなぁ。ちがうよ。せっかくだから一緒に飯でもどうかと思ってね」
軽くウィンクをすると目の前の誰も使っていないテーブルを助信のテーブルとくっつけ始めた。
「いいだろ?」
船木がにこやかに問う。
「ああ、いいよ」
断る理由もないのでokした。
そろそろ高橋以外とも交流しとかないと本当にぼっちになりかねない。
「じゃあお前らもこっちにきて食おうぜー?」
船木が後ろに食べている女子二人に話しかける。
どうやら船木と親しい二人のようだ、
「おーいーね!皆で席囲っちゃう!?やっほー」
一人の女子が素早く食べていた弁当をたたみ。こちらに駆け出してきた。
「お誘いありがとー!よろしくねー!」
そう言うと余ってる机を勢いよく移動させ二人分の席を確保させた。
「おーい!ゆり!席できたよはやくおいでよ!」
置いてけぼりを食らっていたもう一人の女子を呼びかける。
「う、うん」
もう一人のユリという子もその元気な女子の用意した席に座った。
「よろしくね」
ユリという子は助信と高橋の方をみてにこやかに挨拶した。
「おう!あたしもよろしくだぜ!」
続いて先ほどの元気な女子も続いて挨拶した。
「おお、よろしく」
「おお、お二人さんよろしくなー」
助信達も返事を返す。
どうやら昨日の昼より五倍くらいうるさくなりそうだ。
「船木、凄いな、両手に花かぁ!」
感心したように高橋が船木をいじりだす。
しかし、即座に否定した。
「え?ああ違うよ二人とも同じ中学なだけだよ。ついでだから皆で食べようとしたんだよ」
2人の呼び寄せ方からそんな感じはしたが、船木くらいイケメンなら別に両手に花くらい簡単だろうと助信は思った。
「はいはいはいはい!そんなことはいいから自己紹介しよーじゃーん」
2人の会話に割り込むように元気な女子が入ってくる
「まずは私からねー! 神崎晴菜だ!男らしいからよく女の子らしい名前が似合わないって言われるけどそこは突っ込まないこと!よろしくね!」
神崎は元気一杯に自己紹介した。
これが素なら相当元気な子だ。
凄く綺麗な黒髪で長さも腰まである。
だがその髪を後ろに一つに束ねている。まるで主婦みたいだと思った。
顔立ちは凄く綺麗なんだけど、いや、気のせいか。
「ほらほら!美来!次だよ!」
自分の紹介を終えた神崎が次の子を促す。
「わかってるよ晴菜。私は白井美来です。よろしく」
白井という子は先程の神崎と違って普通に挨拶した。
黒髪でベリーショートとまでいかなくともそのくらい短い。
人を評価する身分ではないが中の中ののような外見だった。
「高橋海斗だよー。よろしくねーー」
「三神助信だ。よろしく」
皆軽い自己紹介を済ませると各々食事をし始めた。
「あ、船木のそのパンもらいっ!」
開始早々神崎が船木が封を開けようとしていたパンを素早く横取りした。
「あっ、おいおい!それも大事なエネルギーの一つなんだぞっておい!」
船木が返してもらおうとするもそのパンをすぐに大口を開けて食べ始めた。
「早い者勝ちだよーん」
そのパンは凄い早さで神崎の口の中へ吸い込まれて行く、すぐさまそのパンは全て彼女の胃の中へ消えてしまった。
「うっわぁー、災難だなぁ、船木!大丈夫か?」
その一部始終をとても面白そうに見ていた高橋はニヤニヤしながら心配を口にする。
「ああ、大丈夫だよ。いつものことだから。パンならもう一つあるからってうぉぉぉぉぉい!!」
もう一つ取り出した瞬間にまたもや神崎に強奪される船木。
「いっただっきまーす!」
そしてこちらもまたもや同じようにパンを高速でくらいつくす神崎。
「はぁ、二個目はないだろ二個目は」
がくんとうなだれる船木。
助信も流石にこの神崎という女はやり過ぎだと思った。
このやり過ぎ感はあの高橋とちょっと似ているなと思った。
まぁまぁ、俺のパンやるから、と柄にもなく自分のパンを一つ分け与える高橋。
「そんなことより良いネタがあるんだよ。なんと、あのクラス三位の女子に助信くんは昨日告白しました!」
船木の肩を寄せながらそう告げたが近くで食べている女子にも助信にも丸聞こえだった。
「えーうそ!?もう!?まだ入学して間もないのに?」
今まで黙っていた白井も入ってきた。みんな相当驚いているようだ。
「す、すげぇ。すげぇよ助信!おまえ男だよ!」
いきなり助信の手を掴み涙目になる船木。相当感動してしまったようだ。
「で?どうだったわけよ?まさか成功?だったらマジですげぇよ!」
興奮を抑えきれずに船木は詰め寄ってくる。
意外だったのが先ほどあれだけはしゃいでいた神崎が今の話を聞いて目を大きくしてずっと固まってしまっていた。
彼女にはそこまで驚く程のものだったのだろうか。
「いや、こいつにはめられただけだよ。」
そう良い高橋を指差した。
面倒臭かったが誤解されたままなのはもっと面倒臭いので少し時間をかけて告白をしたことになってしまうまでの経緯を説明した。
とりあえずみんな納得してくれたようだ。
「なんだよーそういうことかよー。でも、本人には一応告白したことになってるんだろ?」
「そういうことだ」
一旦がっかりした顔になった船木だったがまたすぐに元気な顔に戻った。
「いーねいーねー!じゃあ私もそれ応援するぜよ!」
なにを勘違いしたのか神崎も乗ってくる。
「いや、応援しなくていいから。実際に好きなわけじゃないし。仮に好きだとしても絶対実らないぞ」
ここで完全に否定しておかないと取り返しのつかないことになると思い必死に否定する。
「まぁまぁ、そんな自分を過小評価すんなって!」
フォローのつもりか高橋が肩をポンポンと叩いてくる。
こりゃもう駄目だと思い飽きれる他なかった。