女子
ジリリリリリィィィジリイイイイィ!!
ジリリリリィジリリリリィィ!
虚ろな頭に容赦なく押し寄せる巨大な音。
ジリリリィィカチ……
その発信源のてっぺんを右手でタッチする。
目覚ましの時刻は7時20分を指していた。
設定していた時刻通りだ。
「もうこんな時間かぁ、寝足りないわ。」
誰にも聞こえない独り言の文句を言いながらせっせと支度をはじめる。
今日の支度は簡単だ。
歯を磨いて着替えて事前に用意したおにぎりを食べて出かけるだけ。
鞄は学校に置きっぱなしだ。
玄関に一束だけある靴にさっさと履き、ドアを開ける。
「行ってきます」
誰もいない空間に自分の声が虚しく響き渡る。
ガチャッ
扉の鍵を閉め、目的地へ向かいはじめる。
そう、三神助信はこの一軒家に一人暮らし、といっても両親は他で暮らしているわけではない。
二人とも飛行機の墜落事故で行方不明らしい。
物心ついた頃にはまだ両親は生きていたはずなんだが何故かあまり両親の記憶がない。
父も母もとにかく優しかった。
覚えているのはただそれだけだ。
顔すら覚えていない。
もしもっと鮮明に両親の記憶が残っていたらきっとまだ引きずっているだろう。
それで良いんだと自分に言い聞かせる。
「おい助信!」
後ろから自分を呼ぶ声と共に駆け足が近づいて来る。
振り返りはしない。誰かわかってるからだ
。
「おう、高橋」
「おお、相変わらず朝は不機嫌だな助信」
自分に追いつくとともに言葉を投げかけてくる。
相変わらずサングラスは今日もつけていた。
「お前がそのサングラス取ってくれたら少しは朝が楽しくなるかもな」
「いや、これは俺の体のいt…」
「わかったわかった」
何度言っても同じ返答しかないので途中で聞くのを中止した。
………………
昼休み、高橋と購買部で買ったパンを食べていた。
「おーい、そこの高橋くんと三神?くん!」
目の前からニコニコと近づいてくる男がいた?
「高橋、この人もお前の友達か?」
「いや?俺も知らないぞ?」
高橋もパンを食べる手を止め、その謎イケメンを見つめていた。
「い、いや、そんな警戒しないでよ!俺は船木!君達のクラスメイトだよ!ちょっと聞きたいことがあってね!」
と片手を左右に降りながら怪しくないアピールをして見せると、もう片方の手で近くに空いてある椅子を俺たち二人が座ってる場所へと置き、座り出した。
「いやぁ聞きたいことと言ったらひとつでしょー?」
船木は二人の目をみながらにこやかに語りはじめた。
全く初対面なのにこの馴れ馴れしい態度、不快感が全然ないのは彼がイケメンだからだろうか。
「一つ?なんじゃそりゃ?」
高橋がサングラスの位置を修正すると顔を船木に近づけ、聞き耳をたてる。
すると船木が二人に聞こえるほどの声で言った。
「女子だよ!女子!」
三神はぽかんとし、高橋はニヤリとした表情をした。
「あー女子ね、はいはい、それがどうした」
高橋はだいたい話が掴めてる様子で返した。
「このクラスの女子で誰が可愛いか聞いて回ってるんだよ順位つけてさ!お前らも誰か教えてくれよ!」
「おーいいじゃんいーじゃん!一人はこういうことしてくれる奴がいないとね!のるよ!」
高橋は船木の肩に手を掛け意思表明する。
「おー!乗ってくれるか!それで、誰がいいと思う?」
「あ、そういえば名前が」
「いや大丈夫!クラスの名前なら全員知ってるから!あの子って言うだけで大丈夫だよ!」
船木は自信満々に胸を叩く。
なんて用意周到だ。
返答する間もなく船木が話を続ける。
「ちなみに他の皆にはもう聞いてある。その中で一番人気があった奴があれだ、みずきちゃん!」
船木が指差す方向へ二人とも視線を向ける。
そこには仲良く会話を楽しんでいる女子三人グループがいた。
三人のどの子?と聞く必要はなかった。
多分この子だなと一目でわかる違いだ。
髪はショートで水色。
大っきいお目目で時々友達との会話で微笑む姿がとても無邪気だ。
座ってる状態からでも身長が低めの子だろうとわかった。
「なるほどねぇー、いいじゃん!」
「でしょー?ちなみに俺もあの子に投票したよ!で、次の子はねー」
観察してる間に二人が次の子に移ろうとしてるので急いで自分も二人の視線を追った。
「ほらあれ、一人で飯食ってるやつ、みさきちゃん!」
その方向を見ると確かに窓際で美少女が弁当を食べていた。
目立つ白髪ロング。猫目が特徴的だあんまり人をよらせないオーラが出ている。
しかし、絵になるなぁ。
「な?レベル高いだろ?」
自分のことのように喜ぶ船木。
「で、最後があれだ。次は窓側と対象的の廊下側を指さされたその先も美少女?が一人静かに本を読んでいた。」
美少女というようには見えないが根っからの文学少女みたいな外見だ。
茶髪ショートでメガネ。性格も落ち着いてそうだ。
「あの子はさゆりちゃん!ちなみに俺はあの子が一番タイプかな?大人しい子好きだしなぁ」
と船木がウンウンと語りはじめた。
「三人中二人がボッチかぁーウけるなぁ」
高橋がカカカと笑い始める。
「いやぁ違うでしょ!まだ入学式からまもないから馴染んでないだけじゃない?」
「でも、なんで教えたのは下の名前だけなんだ?上の名前はなんて言うんだ?」
そういえば、と気付いた助信が問う。
船木は不思議そうな顔を浮かべた。
「へ?そんなの俺も下の名前しか覚えてないもん下の方が大事だろ?」
と当たり前かのように答えた。
これじゃぁ自分が変な質問をしたみたいだ。
「そうだわ助信、女の子は下だけ覚えてりゃあいいの!高橋!大事な情報教えてくれてサンキューな!」
「おう!っ」
そういい船木は自分のとこへ戻って行った。
暫しの沈黙が続いたあと。
「女子かー……」
高橋切なそうにつぶやく。
「なんだ高橋、切ない過去でもあるのか?」
あまりに意味ありげにつぶやいていたので気になって聞いてみる。
「いや、何もないから切なくなっただけだわ!これを気に助信!お前もあの三人の中の誰かと付き合えよ!」
「付き合えよって。。」
高橋はいつも無茶ぶりをしかけてくる。
今は誰かと付き合うつもりもないし、もしその気になって三人のどれかに告白しても玉砕するだけなんだから。
自信のなさすぎる自分が情けない。
って言っても玉砕するのは事実だ。
「だったら俺に無茶ぶりするばかりじゃなくお前が誰かに告れよ!」
自分にばかり押し付ける高橋に今度は自分からし掛ける。
「え?ああ、べつにいいよ?」
「ほら、そうだろ、だったら最初から人にやらせ……え!?やるの?」
高橋は俄然のほほんとしている。
「告白くらい余裕でしょ。いいよ?明日してやる」
ポーカーフェイスの高橋は相変わらず何を考えてるのかわからなかった。