第5話:意外な犯人
学校の授業が再開されたのは次の月曜だった。教室に入るなり、あきらかに落ち込んでいる僕を見て健太が声をかけてくる。
「亮介、ごめん。こんなときに亮介に何も言ってあげられなくて。」
「そんなこと、気にするなよ。」
「でも、俺……。」
と言ったきり、黙ってしまった。しばらく間をおいて、彼はまた話しはじめた。
「俺、修治に何かしてやることできたかな?」
「そんなこと言ったら俺だって、何も……。」
そう、修治に何かしてやるどころか、俺は……。
「亮介はいろいろ修治に……、」
と、健太は話を続けたが、僕はもう限界だった。
「もうこんなはなしはやめよう。」
健太の話をさえぎり、僕は自分の席に静かに着いた。
何かしていても落ち着かない。何もしていなくても落ち着かない。じゃあどうすればいいのか。どうすることもできずただ時の流れに身を任せていた。が、どう工夫してもそれは苦痛のときには違いなかった。
左斜め前に目線を向けると、そこには春奈の姿があった。相変わらずの流れるような髪。不思議と、彼女を見ているときだけ落ち着いた。余計にイライラするかと思ったら、逆にとても穏やかな気持ちになっている自分がいた。なぜだろう。そういえば、同じクラスになってから、春奈とは一度もちゃんと話したことはなかったなぁ。これだけ遠くから眺めておきながら、話したこともないなんて、僕はどれだけ奥手なんだろう。もう9月なのに。
「亮介、顔色悪そうだよ?大丈夫?」
今度は誰だろう?と思いながら顔を上げた。
「やっぱり、ちゃんと眠れてる?」
そこには、中学三年間ずっと同じクラスだった伊藤真希の姿があった。
「眠れるわけねえだろ。もう俺ダメかもしれない。」
「なに言ってんの、亮介らしくない。」
そういわれても困ってしまう。真希は、普段は大雑把で適当な感じもするけど、こういうときはちゃんと話を聞いてくれる。中学三年間でそれはよくわかっている。僕が一番信頼している女子かもしれない。そうだ、時には真希にも頼ってみるか。そう思い、結局夕方まで話を聞いてもらった。修治との思いで、修治からの最後のメール、それと、春奈の事が気になっているということ。真希は一つ一つうなずきながら耳を傾けてくれたのであった。
翌朝、テレビをつけると、思いがけずニュースが飛び込んできた。
「……に通う高校生、須田修治が殺害された事件で、警察は殺害などの容疑で四十三歳の男を逮捕しました。」
犯人が――捕まった。
犯人の顔写真が映し出される。こいつか、修治を殺したのは。
「逮捕されたのは、現場から1キロほど離れた場所に住む、河原康利容疑者。」
――カワハラヤストシ……
遅刻ギリギリで学校に着くと、教室は修治が殺されたときよりもさらに騒がしかった。犯人が捕まったからだろう。と思ったが、どうやらそれだけではない様子だった。が、それがなにであるかはわからない。尋ねようとしたが、すぐに担任が教室にやってきた。やむ終えず席に着く。担任は事務的に出席を確認する。
修治のほかに、もう一人、学校に来ていない人がいた。主のいないその席は、僕が授業中に、穴が開くほど見つめていたあの席。そう、春奈が来ていない。
――ん?
いやな予感がした。それが何であるか考えるまでも無く、次の瞬間それは訪れた。
「欠席は……河原だけか。」
先生が言ったのはごく自然な、当然のせりふだった。だがそれは、僕にとってはあまりにも恐ろしい事実を伝えるものであった。
河原……カワハラ……。