ノンフィクション
あれか? 特設会場。
何かもっと派手なのを期待してたのに…………
一面真暗な所為で遠近感が掴み難いけど、遠くに見えるあれはコタツとテレビ(薄型ハイビジョン)。
何か、がっかりだよ。
「ミカンも用意してあるからゆっくり寛ぐと良いよ」
「いや、外の季節は夏真っ盛りって感じだったと―――」
「細かい事は良いんだよ。此処に季節感とか求められても真暗だし気温も感じないからね」
確かに何も感じない。
視覚はともかく、嗅覚、触覚、あらゆる感覚が麻痺したように機能していない様に感じる。
実際には機能はしているんだろうけど、感じる物がなければそれは機能していないのと一緒だ。
全くと言っていいほど、刺激がない。
「アイツはそれも楽しんでる様だけどね」
「アイツ?」
「行けば分かるよ」
特設会場に近付くにつれて、コタツで誰かが寛いでいるのが見えてくる。
何だろう。凄く見た事ある人なんだけど…………
「おお、規格外ではないか。こんな所に何用じゃ?」
「アンタ、何で居るの………」
特設会場に………いや、もう茶の間でいいと思う。雰囲気もそんな感じだし。
茶の間に着いた私に対して開口一番、魔法使いはそんな言葉を投げかけて来た。
「ふむ、話せば長くなるのじゃが」
「いやぁ~、戦闘の後に友情ってお約束でしょ?」
そんなお約束は必要ない。
「一言でいえば利害の一致って所かな」
「二言で言えば?」
「魔力が欲しかった。あと楽しそう」
「後半が本音か!」
「魔力だって1割くらい本気だよ」
1割って殆どおまけレベルだよね。
「本当はもっと複雑だった筈なんじゃが、そこまで言い切られるとそんな気もしてくるから不思議じゃのぉ」
「ボケ老人は黙ってろ」
「老人に優しくない世の中になったのぉ………」
呟くような独り言と共に、魔法使いはテレビに視線を戻す。
「で? 何が目的?」
「まあまあ、取り合えずコタツにでも入ってテレビ見ながら話そうよ」
言われた通りコタツに入る。
テレビの丁度反対側に魔法使いが入っていたので、私はその右側へ。刃は左側へ。
これでテレビの面を残しコタツが埋まる。
あ、別に暖かい訳ではないんだね、このコタツ。
「ほらほら、沙耶もアレくらいやってくれないと!」
テレビでは勇者が派手に吹っ飛ばされていた………
え、何これCG?
でも現実に起きていることらしいからノンフィクションて奴だね。
最近の若い子は凄いね
「はいはい、現実から目を逸らさないでね」
「だから、心を読むなと―――」
「魔法ってね、結構いい加減なモノだよ」
「は?」
「これが本題さ。イメージさえしっかりしていれば呪文とか魔法陣とかは付属でしかないんだ」
イメージ、概念と言い変えても良いけどね。と呟きながら、ミカンの皮をむき始める。
あれ? 今してるのって真面目な話じゃなかったっけ。
「概念って言うのは何も自分だけのモノじゃないんだよ。そこで見ている人全員の概念を操作するのさ、だから、そこに存在しているモノを利用した方が魔法は使いやすくなる」
此処までは付いて来てるかい? って言葉に、全く付いて行けませんなんて返せる訳も無く、理解しようと頭をフル回転させる。
つまりアレか、自分のイメージと周囲のイメージを現象として発現させるのが魔法。
この場合自分のイメージがたぶん7割、周りのイメージが2割、残り1割はそれ以外に魔力やら魔法陣やらが関係してくると。
魔法を使っている時の感覚と、今の話を合わせつつ考察を続ける。
「周りの概念を強固なモノにすれば、自分の概念なんて全く必要ない場合もあるさ。あんな感じに―――」
テレビでは勇者の鎧が一部欠けていた。
良く壊せるほど接近出来たな、アレに。
「あの鎧には『鎧』って概念がコレでもかってくらいに入っているからね。壊せばそれはただの鉄に早変わり、鉄を鍛えるとしたら鍛冶屋だろ?」
言葉と共に画面が炎で埋め尽くされる。
ああ、鉄って概念から鍛冶場と火事場を引っ張り出したのか。
「日本にも陰陽道って在るだろ? それの応用だよ」
私、陰陽道とか知らないんだけど………
「沙耶ならこれだけのヒント与えとけば何とかなりそうだね。勇者も倒したし私は早く寝たいんだよ」
何時の間にか電源が切れたテレビは真黒。
「そろそろ時間だよ」
「―――え?」
眼が覚めた私は、懐かしい何故かサイモンさんの家に居た。
どうしてこうなった!?
たぶんあと一話で2章完結
閑話3つくらい入れて、3章突入です!
閑話 ~舞台上の裏事情~
第三章 奴隷○○編 ~その肉まんを私に寄こせ~
お楽しみに