久我の血
真暗い川を渡る船に乗ってる。
此処は何処、私は誰?
うん、前にも言った気がする。反省も後悔もしていない。
だたし―――
「呆気無かったなぁ」
前とは違って状況が分かる。
勇者に負けたんだ。
死んだか、危篤状態か………
こっちの世界にも三途の川ってあるんだね、初めて知ったよ。
「お客さん、何処から?」
「ああ、案内さん。私異世界から来ました」
船尾に居る黒い人が声を掛けてきた。
結構フランクだけど、行く先は地獄以外に在るのだろうか、凄く気になる。
「へぇ~、それはまた奇特な所から来ましたね~」
「ところで爺さん? 婆さん?」
何か六文もって無いと身包み剥がされるって聞いた事ある。
ちなみに765円しか持って無い。
千円でポテチとコーラ買ったからそれしか残って無いんだよ。
足りるかな? ってか六文って幾ら?
「お客さん意外と落ち着いてるねぇ」
「覚悟はしていたからね」
人間死ぬ時は死ぬものだ。
それが病気でも、寿命でも事故でも、意外と呆気無く死ぬ。
私は勇者に逢って殺された、それだけの話。
「まあいいや、私には関係ない事だし」
あれ?
個の声どっかで聞いた事ある気がする。
「そろそろ現状を認識してくれ、君はまだ死んじゃいないし、あんな雑魚に殺されるなんて私が許さないよ」
案内さんだったと思っていた人の方を振り返る。
其処には、私が居た。
うん、どう見ても私。
年齢が18歳くらい。
黒髪、腰まで届くロング、ツリ眼、ツルペタ、童顔。
まるで鏡を見ているようだったが、あちらの服装は黒い作務衣だ。
これだけは言っておこう、私に双子の姉妹とかは居なかった。
景色も真暗い川から漆黒の空間に切り替わる。
その空間に茫然と立ち尽くす私と、座る様に浮いている私が居る。
何これ怖い。
「自己紹介からしようか、私は君、または本能、それ以外だと君達が言う『久我の血』って奴だよ」
「今まで惰眠をむさぼってた癖に、今更その本能さんが何の用?」
「本能さんか、悪くは無いんだけど不便だね」
少し考える素振りを見せる本能。
「私の事はそうだな…………。刃とでも呼んでよ」
ああ、私が沙耶だから刃ね。
分かりやすい。
それ考えると柄とか鍔とかも居るんだろうか?
居ないといいな………
「今回は私が相手するけど、次からはこれくらい倒しちゃってよね」
「刃は私の意識乗っ取る気とか無いの?」
「え? ああ、私の本質は怠惰、面倒な事はやりたくないんだよ」
怠惰って………それで良いのか久我の血。
まあ、長年の謎も解けたのは良いけど、ちょっと知りたくなかった真実だよ。
私が血に目覚めなかったのって刃が怠惰だった所為か。
「暇だし、勇者との戦闘でも見る?」
「え、見れるの?」
なら今表で戦ってるのって誰よ。
「私は本能だからね、態々思考しなくても闘うぐらい訳無いよ」
私の思考を読まないで欲しい。
今居るのが精神世界的な所ならそりゃ思考ぐらい読まれても仕方ないかもしれないけど、そこはプライバシー的にね。
「あっちに特設会場が在るから、そっちへ行こう」