商魂逞しい
「私がやってたのは簡単な魔法回路の製造と、発動呪文の簡易詠唱です」
「それは……」
うん、まあ、人外級の技術だとは自分でも思うんだけどね。
ほら、火力が調節できるって便利なんだよ。
「でもこれ、数世代くらい前の技術を発展させただけなんですよ」
「………は?」
驚くなってのは無理な話だろうけど、実際にはそんな感じ。
「魔法回路だって昔は毎回手書きしていましたけど、今じゃ魔力の通りが良い物質で作って武器の中に組み込んだりしています」
「ああ、そう言えばそうか」
「簡易詠唱だって、音が発動の鍵になっているって知っていれば、それと同じような音を出せば魔法は発動するって事ですよ」
だから個人個人で詠唱は違ったりするんだろう。
他人の詠唱で自分の魔法が暴発するなんて怖すぎる。
「魔法は言ってしまえば事象の変換技術です。つまり、出来るだけ事象を変換しないように魔法を発動した方が魔力の消費が少ないって事なんです」
「いや、ちょっと待ってくれ、訳が分からなくなってきた」
「今の料理で例えますと、火を作りだすにはそれなりの魔力が必要です」
「まあ、確かにそうだね」
「でも、火を操る魔法なら魔力の消費って凄く少ないんですよ」
「―――? ああ、つまりは元々在る物を利用した方が効率良いって事かい?」
「ええ、概ね間違っていませんよ。それに、火を作り出しながら火加減を操りつつ料理するなんて高度な事、私には出来ませんよ」
「アレだけの魔法を使っておいて器用じゃないって?」
藪蛇だったらしい。
「いや、僕にも分ってはいるんだ。殺さずにって言うのはそれだけの力量と技術が必要だって言うのは―――」
でもとサイモンさんは言葉を続けて行く
「娘が人を殺すって事に納得がいかないだけでね。これでも旅先で殺し殺されくらいなら幾らでも見て来たんだけどね」
一般人ならそんなもんです。
本当に娘の様に思っていてくれているのには感謝してもし足りないけれど、私の性格は直そうと思っても治るもんじゃないし。
ここは諦めてもらう他無いね。
その後の旅は順調そのものだった。
何事も無く遺跡に到着。
先に来ていた先遣隊の皆さんに挨拶しつつ、地下遺跡の概要を聞く。
どうも地下数百メートルに渡って巨大な遺跡が存在しているらしい。
初代勇者の墓と思しき物も発見されているらしく、これからの調査次第ではこの辺りに街が一つ出来るかもしれないとのこと。
観光名所って奴だね。
なんて言うか、この世界の人は商魂逞しい。
まあ、そんなどうでもいい事は置いておいて、たぶん、此処が分岐点だったんだと思う。
いや、分かれ道にすらなって無かった。
選択肢の無い分岐点。
運命、宿命、言葉ではなんとでも言えるけど、後悔するのはきっと、物語が終わってからだろう。
もうそろそろ2章も終りです
2章は自転車更新で短い話が多かった気がします
なので、2章の話数を少し短くするために
くっ付けたり書き直したり……
まあ、そんな予定もあるんで、3章前にちょっと時間ください