貞操の危機
旅の準備は万全。
旅までの間にいろんなものを仕入れた。
刃渡りの長い近接用ナイフ、動物を捌く用のナイフ、それと投げナイフ、食料品は全部サイモンさんに一任しているから、その他ナイフを取りそろえて合計50本準備した。
あれ? ナイフしか買って無い……だと!?
まあ、別に気にしないんだけどね~。
旅支度の時には服にナイフを30本程装備できる様に魔改造を施した。
ホントに魔法って便利だ。
ちょっと魔術回路を捻じ込んでやればナイフを収納するスペースがこれでもかってくらいに増えやがりましたよ。
ついでに両手両足にも魔力を開放する為の簡易魔法回路を組み込んでみた。
効果は魔力の放出―――これだけでも衝撃波として使用出来るから対人戦には有効―――と展開した魔法の効力の維持。
まあ、魔法回路で作りだした魔法は回路から離れるごとに効力が無くなって行くからそれ対策にやってみたんだけど、衝撃波はオマケでついて来た。
そして旅に出た私達。
『達』って言っても私とサイモンさんの二人だけ。
「―――もしかして貞操の危機!?」
「何をいきなり言い出すんだこの娘は!」
「いやだって、二人旅ですよ? しかもご主人様ですよ?」
「その旅が今、まさに、死での旅になりそうなんだけど!」
現在、盗賊に囲まれてます。
総勢20名に満たない程度の人数。
街を出て一日、野営の準備をしているところを狙われました。はい。
「小娘ぇ、此処で会ったが百年目だ」
はて、何処かで会った事の在る様な野郎だな。
四肢を怪我しているのか、リーダーっぽい大柄な男は不自由そうに武器を構えている。
「お前はただ殺すだけじゃ飽きたらねぇ。凌辱して四肢を斬り落としてゴミ屑の様になっても生殺しの状態で生かし続けてやる………」
なんか凄い恨まれてますが………
「あの~」
「ああぁ!?」
「付かぬ事をお聞きしますが、何処かでお会いしましたっけ?」
「ふざけてんのか、ああ!?」
やばい、何でこんなにキレた人と知り合いになっちゃったんだろ。
「サヤ、本当に覚えてないのか? この街に来る時に襲ってきた盗賊だと思うんだが」
「ああ! そう言えば会いましたね、人間の屑と」
サイモンさんの一言で思い出した。
そう言えばそんな事もあったな、良い思い出として心の奥底に眠っていてくれればいいモノを、憐れな………
「ご主人様、殺していいですか?」
「ご主人様って呼ぶのやめてくれないかな? どうせならパパとか父さんとか、せめてサイモンさんって呼んでくれないか? それと殺しはダメだよ」
「では旦那様、此処に居る全員を殺していいですか?」
「むしろ不安材料が増えた!?」
殺さずにってのは強者の傲慢だと思う。
大体、私はこの人数相手に殺さずを貫けるほど強くは無い。
「てめぇらは俺をおちょくってんのか!」
リーダーっぽい大柄の男が怒鳴り声と共に持っていた武器を投げつけてくる。
それを手で弾く。
魔法回路の調子はいいらしい。
バチン、と言う音と共に投げつけられた剣はあらぬ方向へと飛んでいく。
うん、殺そう。
空中に魔法回路を描き出す。
私の魔力の量を考えると呪文だけの帝国魔法の方が手っ取り早いんだけど、呪文詠唱って恥ずかしいんだよね。
その点、魔法回路を使用すれば一言呟くだけで魔法が発動できる。
こんな風に―――
「炎」
呟いた瞬間、正面の盗賊達に炎が迫る。
服を焼き、肉を焼き、骨すら残さず、塵と化す。
その光景を見る者は、一人以外、総じて恐怖に引きつる顔をしている。
その光景を作りだした私は、何の感情も映し出す事も無く、無表情にそれを見つめる。
まったく、面倒な―――
風邪引きました
体調崩して二日寝込んだ作者を許して神様!