夢の中へ
クソ、寝付けない………
眠いはずだ。
体は疲れているし、心も疲労感で一杯なのに、意識は高ぶって仕方ない。
今日感じた肉の感触。
久しぶり過ぎて新鮮に感じたせいだろうか。
肉を抉って行く剣先。
骨を断つ時の抵抗。
命を奪ったと確信できる感触。
「……………」
無理やり眼を閉じ、夢の中へと落ちて行く。
無理に寝ると絶対に悪夢を見ると言う確信はあったが、それでも起きているよりはずっと良いと、その時は思った。
目の前に死体がある。
誰のだろう?
今日殺した盗賊に見える。
顔が苦痛に歪んでいるのが分かるが、どうしようもない。
もう死んでいるのだから、苦痛を和らげる事も出来ない。
死体が増える。
たぶん、この世界に来てから初めて殺した近衛兵。
また増える。
名前も知らない誰か。
突然、私を襲ってきた誰か。
同じ修練を積んでいた同族。
人生で初めて殺した、浅木祐樹。
そして―――
実の父親。
今更だ。
罪悪感も嫌悪感も浮かばない。
「本当に?」
屍の上に座り込む、誰かの声に応える様に呟く。
「殺した相手に何を思えばいいのか、分からないんだよ」
「最初に人を殺した時も、そう思った?」
「何も思わなかった」
「実の父親を殺した時も?」
「何も、思わなかったよ」
そうだ。
幼馴染で、お節介で、私の事が好きだった癖に、隠そうとしていた祐樹。
あれだけ親しくしていても、結局は何も思わなかった。
実の父親、アレはアレで嫌悪感しかもっていなかったけど。
肉親を殺した時でさえ、何も思わなかった。
ああ、結局私も久我家の一員なんだなって、実感しただけ。
だから、覚悟を決めた。
殺した相手も自分も納得できるような覚悟を―――――
「―――――」