急には止まれない
雨以外は何事も無く旅は進み、目的地はもう目と鼻の先。
後半日も行けば―――
「そう言えば、サイモンさんの家ってどこにあるんですか?」
「あれ? 言って無かったっけ。セントリア貿易都市の住宅街さ」
セントリア貿易都市か、食材には事欠かないとありがたい。
「どんな街なんですか?」
「う~ん………どんな街か、まず賑やか、次に雑多ってところかな」
いつもは気にしてないから、よく分からないやと笑顔で応えるサイモンさんに、楽しそうな街なんだな~と何となく思う。
出身地の事なんて、住んでる人よりも他所の人の方が詳しかったりするし、私だって日本の事を聞かれても上手く答えられる自信が無い。
着いてからのお楽しみって事で、まずは奥さんと子供さんと仲良くならなければ!
「盗賊だ!」
声自体は後方から、そして、それを聞いた全員の行動は早かった。
「用心棒の冒険者は後方に回れ! 他は全速力で逃げるぞ!!」
このキャラバンのリーダー的な存在の商人が命令を出し、それを聞く前に馬車の操縦者は馬へ鞭を入れている。
「サイモンさん―――」
「大丈夫だよ、こう言う時の為に冒険者だって雇ってるんだから」
ああ、いえ、その事は心配してないんですけどね。
ああ、サイモンさんも他に漏れず、馬に鞭入れて走りだしちゃってるし。
馬車は加速しながら、前を行く馬車に付いて行く。
たぶん―――
「っ―――うわぁ!!!」
馬車は急には止まれない。
前の馬車の後ろギリギリで急停車。
まあ、戦術でも、戦略ともいえない様な策だよね。
後ろで声を上げさせる。
たぶん結構な人数で攻めて来たんだろう。
前で待ち伏せる。
此処は森の中の一本道だし、先回りするのも、この辺りを把握していれば難しくは無いだろう。
面倒な事になったなぁ。