王子の憂鬱
なんだったんだろうな、あの女は。
いきなり攻撃を仕掛けてきたかと思えば、不意撃ちだったとは言え、簡単に無力化される。
アイリスを狙って来た刺客かと思い、魔法で記憶を覗こうとしても上手くは行かなかった。
仕方なく奴隷の刻印で行動を制限すれば、何の抵抗も無く、王都までたどり着いてしまい、最後に王との面会にも連れて行ったのだが、特に問題も起こさなかった。
流石に俺の勘違いだったか。
少し罪悪感があるが、ムラサメにも問題があったのだし、俺の商品が手荒な扱いを受けるとは考え難い。
「やあ! 遊びに来たよ~」
一息付いている所に、一番厄介な奴がきやがった。
「何だいその顔は、とっても嬉しそうじゃないか」
「迷惑そうな顔だ! 大体、朝はおはようだろうが」
シャルティア=ローレライ、学園最強の魔法使いにして俺と同期であり、自称迷探偵の情報屋。
人は彼女を魔女と呼ぶ。
いつの間にか仲良くなっていたのだが、俺にとっては迷惑でしかない。
年齢は俺でも知らない。
確かアレは、出会って間もない頃だったと思う。
つい口を滑らせた俺は、気が付いたら病院に居た。
何を言っているのか分からないと思う。
俺も何があったのかが分からない。
ただ一つ『年齢を聞いた気がする』という、漠然とした記憶だけが頭に残っている。
「なら言い直そうじゃないか、おはよう、ゲイル」
「ああ、おはよう」
祭の最中に顔を出したと思ったら、それから今日までずっと居座ってやがる迷惑な友人だ。
流石に、その生活も今日で終わりなのだ。
「帝国の召喚実験の話だが―――」
「またその話かい? 朝から血なまぐさい話はよしてくれよ」
「その後の帝国の動きについて―――」
「その事はもう話しただろう? ボクは何も知らないよ」
コイツが知らない訳が無い。
むしろ、コイツは知らない事の方が少ない。
「黒龍を召喚して使役しようとして失敗。犠牲は約千人。生存者は皆無」
ここまでは簡単に調べる事ができた。
此方も事後処理や情報整理と忙しいのだ。
必要な時には居ない癖に、不必要な時には隣に居るシャルティアを睨みつける。
「へ~、良く調べたね。ボクは全く知らなかったよ」
「意見を聞かせろ」
俺が真面目になったのを見て、シャルティアも真面目な顔になる。
「そろそろ出発しないと遅刻するよ?」
「何を言っている。今日はいつもより早く―――」
アイリスの事を忘れていた事を思い出し、急ぎ準備を整える。
窓から顔を出し、後ろ姿に向かって叫ぶ。
「シャルティア、話は後で聞かせてもらうからな!」
「覚えてたらね~」
悠々と歩いて屋敷を出て行くシャルティアを見送り、妹の部屋の前で立ち止まり―――
祭から1週間くらい経過してます。