バカにされてる気がする
「初めに言っておこう。基本的に、ボクはキミが異世界人だという事を広めるつもりはない」
迷探偵は本の山に腰かけつつそう言った。
身長は低め、年齢は同じぐらいだろうか。
顔は中性的だが、ローブを押し上げる胸の大きさから見て、男性はありえないだろう。
殺る事に、躊躇う理由が無くなった。
「それで、そんな事を言う為にここに来た訳ではないのでしょう?」
「話が早くて助かるね。キミは頭が良いらしい」
何だろう、バカにされてる気がする。
「まず、何故私がキミの事を『識っているのか』って事を説明しよう。そっちの方が、話が速そうだ」
それは是非とも聞いておきたい。
今後、口封じ―――もとい、説得する相手が増えるのは好ましくない。
「ボクは千里眼と心眼、精霊眼や竜王眼を駆使して世界を見てるからね」
おっと、何だろうこの厨二………困ったな。
「おいおい、なんだその痛い人を見る目は、普通はもっと驚くとこ―――ああ、キミは異世界の人だったね」
もしかして、キミの世界では有り触れた物だったのかな? それとも魔法とかが存在しなかったのかい? と言う言葉に後者だよと頷く。
「仕方ない、こっちの世界の常識を簡単に説明しよう」
当初の目的だった世界の常識ゲット!
この人怪しい人だけど良い人だったよ。
キミの世界の事は知らないが、という前置きと共に始まる簡単な講義。
この世界では魔法が生活基盤になっている。
魔法とは生まれつきの才能にも左右されるが、基本的には誰にでも使える物。
そして、自称迷探偵は才能の塊。
とってもファンシ………じゃなくて、ファンタジー。
私にも魔法って使えるのかな?
そのあたりも教えてくれると助かるんだけど。
「基本はこのくらい、あとは自分で調べたまえ」
何この役に立たない人。
「ボクがどれだけ説明した所で、キミは全て信じる訳ではないだろう?」
現に今だって、9割は疑っているはずだ。って、何で分かるんだろう。
ああ、探偵だからか。
「それで何故、キミの事が分かるかって話に戻るんだが―――」
そうだ、そこが一番重要だ。
「キミの事が、ボクには見えないからさ」
は?
「確かに、肉眼でキミを捉える事は出来る。でもね、魔術的な視点、視界を通した場合、キミの事は分からないんだ」
大事な事なのでもう一回……………は?
見せる方が早そうだ。と言いながら、迷探偵の眼の色が次々に変わっていく。
最初は黒だったが、次は赤、緑、青。
カラフルな瞳をお持ちですね。
瞬きする度に代わる瞳の色に、しばし呆然とする私。
「まあ、説明はいいや、面倒だし。今見てもらったのが精霊眼や竜王眼と言った、凡才が100年努力しても辿り着けない魔術の秘奥、最終形態と言ってもいいかもしれないね」
へぇ~。
スケール大き過ぎて、どう反応すればいいのか分かんねぇや。
「要するに、ボク以外にキミを発見出来る様な人物は居ないって事で大丈夫だよ」
なるほど、分かりやすい。
「そろそろ、その殺気を抑えてくれると助かるんだけど」
―――飛びかかる。
右手で真直ぐに頭部を、左手は体で隠しながら腎臓を狙う。
しかし、その手は届くことなく、体ごと見えない空気の壁の様な物で阻まれる。
「さぁ、取引をしよう」
「内容による」
不味い、完全に向こうが有利。
体は宙に浮いた状態で止まってしまった。
そして、相手の表情が真剣な物になったのを見て、これが本題だと理解する。
「キミには、未来を変えて欲しい」
後4話くらいで新章突入
できたらいいなぁ…………
ということで、主人公の目的がやっと決まりそうです