何としても関わりたくなかった女の子。
昔から、月曜の朝は好きじゃなかった。
勉強のせいじゃない。
理由は……人の多さだ。
校門をくぐった瞬間、まるで街中の人間がそこに集まっているかのような気分になる。大声で笑う者、フットボールを投げ合う者、ギリギリになって宿題を写している者。そんな喧騒の中、僕はいつもただ一つ、人の波の端っこを歩くようにしていた。
誰にも気づかれなければ……
……僕にとっては、上々の滑り出しってわけだ。
「アーリアン!」
背後からラーガヴの声がした。
僕は足を止めずに言った。「朝っぱらから名前を呼ぶなよ。誰かに聞かれたらどうするんだ」
彼は僕の歩調に合わせて並んで歩き出した。
「お前は本当に変わらないな」
「なんで?」
「世の中の人間は、みんな自分を認めてほしがるもんだろ」
「でも僕は、名前なんて呼ばれたくない。出欠確認の時以外はね」
ラーガヴは笑った。
「お前は人間なのか、それとも学校の壁なのか?」
「壁の方が安全だろ」
教室へ向かっていると、前方に人だかりができているのが見えた。
ラーガヴが首を伸ばして覗き込む。
「どうやら、*彼女*が来たみたいだぞ」
「誰が?」
彼は、まるでとんでもなく馬鹿げた質問でもされたかのような顔で僕を見た。
「おいおい……アーリヤだよ」
僕は即座に視線をそらした。
「おい、裏の廊下から行こう」
「なんで彼女の姿を見るとルートを変えるんだ?」
「ルートを変えてるわけじゃない……」
僕は真顔で言った。
「……心の平穏を守ってるだけさ」
ラーガヴはまた笑った。
---
僕は裏の廊下のドアを開けた。
誰もいない。
ほっと息をついた。
「ほらな? 頭を使うって大事だろ」
二、三歩進んだところで、前方から声がかかった――
「おはよう」
足が止まった。
本を抱えたアーリヤがそこに立っていた。
彼女は僕の姿を見ると、少しだけ眉を上げた。
「あら……あなたもこのルートを通るの?」
僕はゆっくりとラーガヴの方を見た。ラーガヴは笑いをこらえながら、顔をそむけた。俺は心の中でつぶやいた。
「神様……今日は休みか?」
アーリヤが微笑んだ。
「何か言った?」
「いや」
「本当に?」
「もし何か言ったとしても、君はそのままそこに立っていただろうけどね」
「言わなかったら?」
「それでも、君はそこに立っていただろうね」
彼女は小さく笑った。
「正解」
俺は目を閉じた。
「最悪な一日の始まりだ」
---
授業が始まる前、俺はいつも一番後ろの席に座っていた。
なぜかって?
先生があまりそっちを見ないからだ……
他の生徒たちもね。
俺は鞄を置き、ほっと息をついた。
その一分後、教室のドアが開いた。
クラス中が急に静まり返った。
見なくても何が起きたか分かった。
「彼女が来たんだ……」
アーリヤが入ってきた。
誰もが彼女に「おはよう」と声をかけている。
彼女は微笑みながらみんなに挨拶を返し、自分の席へと向かっていたが……
突然、足を止めた。
彼女は俺を見た。
それから教卓の方を見て。
また俺の方を見た。
そしてまっすぐに歩いてきて、俺の席の前に立った。
「アーリヤン」
俺は顔を上げた。
「ん?」
「ちょっと立ってくれる?」
「なんで?」
「窓際に座りたいの」
俺は窓の方を見た。
そこは俺の席だった。
「でも、君の席は……」
「今日は変えたい気分なの」
クラス中の視線が俺たちに集まった。
俺はゆっくりと鞄を持ち上げ、別の席へ移動しようとした。
アーリヤが言った。
「ねえ……」
俺は立ち止まった。
「席を譲ってなんて言ってないわよ」
「じゃあ?」
「ちょっと詰めて座るだけ」
クラスに笑いが広がった。
俺は信じられない思いで彼女を見た。
「つまり……俺と一緒に座るってこと?」
「なんで?」
彼女はこれ以上ないほど無邪気な表情を浮かべた。
「私が噛みつくとか?」
後ろからラーガヴが声をかけた。
「いや、違うな……彼女はただ、お前をじわじわと苦しめるだけだよ」クラス中が再び笑いに包まれた。
私は頭を抱えた。
「神様……お願いだから、今日すぐにでも転校させてくれ」
---
1時間目は数学だった。
先生が黒板で問題を解説していた。
私は真剣に勉強に取り組もうとしていた。
その時、小さなメモが私のノートの上に落ちてきた。
こっそりとそれを開いてみた。
そこにはたった一行、こう書かれていた――
「そんなに背筋を伸ばして座ってると、ロボットみたいだよ」
私は横をちらりと見た。
アーリヤは、この世で勉強こそが唯一大切なことであるかのように、黒板を見つめていた。
私はペンを手に取り、その下に書き込んだ――
「授業は勉強するためにあるんだから」
私はメモをそっと押し返した。
10秒後、同じメモが私の手元に戻ってきた。
「私も勉強してるよ。それと同時に、あなたをからかってもいる。マルチタスクってやつ」
私の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
私はすぐにそれを抑え込んだ。
その瞬間、先生の声が響いた――
「アーリヤン!」
私は立ち上がった。
「その笑みはどういうことだ?」
クラス全員が私の方を振り返った。
私は静かに言った。
「先生……問題が解けました」
先生は満足げだった。
「よろしい!」
ラーガヴは笑いをこらえようと、机に突っ伏していた。
アーリヤは窓の外に視線を向けたが……
その肩はわずかに震えていた。
彼女は笑いをこらえていたのだ。
---
昼休みが始まってすぐ、私は決めた――
「今日は屋上はやめておこう……図書室も……食堂も……」
私はまっすぐ、校舎の裏にある古いマンゴーの木へと向かった。
そこはいつも静かで落ち着く場所だった。
私は弁当箱を開いた。
「やっと……」
その時、上から何かが落ちてきた。
ドサッ!
小さなマンゴーが、私の弁当箱の中に真っ直ぐ落ちてきたのだ。
驚いて顔を上げた。
誰かが木の太い枝に座っていた。
白い靴。
学校のスカート。
そして、手に持った食べかけのマンゴー。私はまばたきをした。
「アーリヤ?」
彼女は枝の上から、何気ない様子で下を覗き込んだ。
「あら……」
「ここにいたの?」私は信じられない思いで尋ねた。
「それ、こっちのセリフだよ」
彼女は微笑んだ。
「ずっとここにいたの」
「木の上で何してるの?」
「お昼ごはん」
「木の上で?」
「下はうるさすぎたから」
私は数秒間、彼女を見つめた。
それから、笑いをこらえながら言った。
「学校一の人気者が……木の上でマンゴーを食べてるなんて?」
「うん」
彼女は肩をすくめた。
「誰にも言わないでね」
私は真剣な顔つきを作った。
「今から学校中にポスターを貼って回るよ」
初めて、アーヤが心底彼女は急いで木から降り始めた。
最後の枝で足が滑った。
「あっ!」
私は思わず前に踏み出した。
彼女はまっすぐ私にぶつかった。
私たちは二人ともバランスを崩した…。
そして次の瞬間…
私たちは二人とも草の上に座り込んでいた。
私の弁当箱はひっくり返っていた。
マンゴーは転がっていった。
数秒間、私たちはただ見つめ合った。
それから私は静かに言った。
「おめでとう。」
「何が?」
「お弁当をひっくり返したから…それに、私の心の平穏も…両方ね。」
アーリャは唇をすぼめた。
1秒…
2秒…
そして彼女は涙が出るほど大笑いした。
彼女の笑い声を見て…
なぜだかわからないが…
私も笑い出した。
そして、もしかしたら…
これが初めてだったのかもしれない…
彼女から逃げるのは…そう簡単ではないと感じた。
その日を境に、私は新たな問題に直面することになった。
以前はアーリヤを避けるようにしていた。
今では、彼女がよく座っていたあの木を避けるようになった。
だが、運命というものは、私の窮状を哀れむどころか、面白がっているようだった。
翌日、学校に着くやいなや、ラーガヴは私を見てにやりと笑った。
「今日はどこへ行くんだ?」
「教室さ」
「正面の階段から?」
「いや」
「裏の階段?」
「違う」
「じゃあ?」
私はポケットから紙切れを取り出した。
そこには手書きの校内地図が描かれていた。
ラーガヴはそれを二秒ほど眺め、それから私を見た。
「勉強しに来てるのか……それとも銀行強盗でもしに来たのか?」
私は至って真剣な顔つきで言った。
「脱出計画だよ」
「誰から?」
「アーリヤからさ」
ラーガヴは笑いをこらえながら、体を支えるように壁にもたれかかった。
「お前、どうかしてるよ」
「いや……経験者なんだ」
私は地図を指さした。
「このルートで行けば……彼女と鉢合わせる確率はわずか10パーセントだ」
「じゃあ、正面から行くと?」
「90パーセント」
「裏のルートで鉢合わせたらどうするんだ?」
私はしばらく黙り込んだ。
そして、地図を折りたたんでポケットにしまった。
「そんな事態は考えたくもないね」
---
私は自信満々で裏のルートを進み始めた。
廊下には誰もいなかった。
階段にも誰もいなかった。
私は微笑んだ。
「今日の勝ちはもらった」
最後の角を曲がった、その瞬間だった……。
アーリヤがそこに立って、水を飲んでいたのだ。
彼女はボトルを下ろし、微笑んで言った。
「おはよう」
私は五秒間、彼女を見つめた。
そして、ゆっくりと踵を返し……
来た道を戻り始めた。
背後から彼女の声が響く。
「どうして逃げるの?」
振り返ることなく、私は言った。
「思い出したんだ……今日は家から学校に来たんじゃなかったってことをね」 2秒間の沈黙……
やがて、彼女の笑い声が廊下中に響き渡った。――
1時間目が終わり、担任の先生が入ってきた。
「いいか、来週は理科の課題を提出する日だぞ」
教室中に一斉にため息が漏れた。
先生は続けた。
「今回はペアで取り組んでもらう」
私はほっと息をついた。
(ラーガヴと組もう)
先生が名前を読み上げ始めた。
「ラーガヴ……モーヒト」
私はラーガヴを見た。
彼はとぼけた顔をしていた。
そして先生は言った――
「アーリヤー……」
私は心の中でつぶやいた。
(神様、今回だけは……)
「……そしてアーリヤン」
クラス全員が一斉に私の方を向いた。
ラーガヴが静かに両手を合わせた。
「神様が聞いてくれたな……」
私は彼を睨みつけた。
「黙れよ」
アーリヤーが私を見た。
彼女の唇には、あの薄い笑みが浮かんでいた。
まるで、最初からすべてお見通しだったかのように。
――
放課後、図書室で待ち合わせることになっていた。
私は5分早く到着した。
「せめて今日くらいは、俺が一番乗りしてやる」と思っていたのだ。
だが、着いてみると……
テーブルの上には、冷えたジュースが2本置かれていた。
そのうちの1本に、小さなメモが貼ってあった。
『もしあなたが遅れてきたとしても、結局は私が先に着いてたはずよ』
私は微笑んだ。
「まったく、この子は……」
その時、向かいの椅子が引かれた。
「座ってもいい?」
私は顔を上げた。
「なんで聞くんだよ。どうせ座るくせに」
彼女は腰を下ろした。
「ほら……私のことがわかってきたじゃない」
私は頷いた。
「残念ながらね」
――
課題のテーマは――
「雨水を有効活用する方法」
私は黙々と図表を作成していた。
アーリヤーは色を塗っていた。
しばらくして、彼女が尋ねた。
「いつもこんなに無口なの?」
「ああ」
「退屈じゃない?」
「いや」
「友達は何人いるの?」
「一人」
「ラーガヴ?」
「ああ」彼女はしばらくの間、私を見つめていた。それから、彼女は静かに言った。
「これで二人だね」
私はペンを止めた。
彼女の方を見た。
彼女は、まるで何でもないことでも言ったかのような、ごく自然な表情で色を塗っていた。
なぜだろう……。
その一言が、私の心に穏やかな温もりを残した。
---
夕暮れ時だった。
図書室にはほとんど人がいなかった。
私は資料を片付けた。
「行こうか」
「行こう」
私たちは一緒に外へ出た。
校門に差し掛かった途端、激しい雨が降り出した。
子供たちが思い思いの方向へ走り出した。
私は鞄から傘を取り出した。
アーリヤはただ雨を見つめていた。
「傘、持ってないの?」
彼女は首を横に振った。
「今朝は晴れてたから」
少し考えた。
そして、彼女に向かって傘を差し出した。
「ほら、これ使って」
「あなたは?」
「濡れるよ」
「風邪ひいちゃうよ」
「そんなに弱くないさ」
彼女は微笑んだ。
そして、何も言わずに私の隣にやってきた。
傘が二人を覆った。
私はすっかり黙り込んでしまった。
「どうしてそんなふうに見るの?」
「君は……」
「何?」
「……どうして傘を返さなかったの?」
彼女は笑った。
「あなたを雨の中に放っておくほど、意地悪じゃないわ」
私たちはゆっくりと道を歩き出した。
傘の縁から雨の雫が滴り落ちていた。
しばらくの間、雨の音だけが響いていた。
やがて、彼女がふいに尋ねた。
「アーリヤン……」
「うん?」
「私って、本当にあなたの邪魔?」
私は彼女を見た。
いつものような答えを返す気にはなれなかった。
私は微笑んで言った。
「うん……」
彼女は少し悲しげな表情を浮かべた。
私は急いで付け加えた。
「……でも、もしある日君が邪魔じゃなくなったら……」
「……学校が少し静かすぎるように感じるかもしれないな」
彼女は立ち止まった。
私を見つめた。そして、とても優しく微笑んだ――まるでその笑顔に触れた雨さえも和らいでしまうかのように。 「つまり……」
「少しは慣れてきたってこと?」
俺は視線を逸らした。
「まあ、そうかもな……」
彼女は静かに言った。
「よかった」
「どうして?」
「だって、私も……」
彼女が言葉を最後まで言い終える前に、向こう側からラーガヴの声が響いた。
「おっ!」
俺たちは二人して、そちらを振り返った。
ラーガヴは道の向かい側に立っていた。
彼は大きな声で呼びかけた。
「アーリヤン! お前、静かで穏やかなのが好きだって言ってたじゃないか!」
俺が何か言うより先に、アーリヤは微笑んで俺の方を見ると、こう言った。
「ええ……でも今は、その平穏の半分は私のものよ」
ラーガヴが大きな声で笑ったので、通りすがりの人々が彼を振り返った。
そして俺は……
初めて、彼に返事をする代わりに彼はただ微笑んだ。
その後の数日間、学校中で奇妙な噂が広まった。
「アーリヤとアーリヤンが一緒にいたらしいよ」
「二人とも図書室にいたんだって」
「雨の中、相合傘で帰ったらしいよ」
どこへ行っても、何人かの人が私に微笑みかけてくるようになった。
以前の私なら、そんな状況を避けるためにわざわざ道を変えていただろう。
でも今回は、なぜか……それほど気にならなかった。
もちろん、少し照れくさくはあったけれど。
その日、私はいつものように一番乗りで教室に着いた。
机に鞄を置いたとき、小さな箱が目に入った。
私は小さく微笑んだ。
「またか……」
箱を開けてみた。
中には小さなチョコレートと、一枚のメモが入っていた。
『今日はあなたの笑顔が見たいな』
メモを読み、私はそれをポケットにしまった。
もう、そんなメモを捨てたりはしなかった。
大切に保管していたのだ。
その時、背後から声が聞こえた。
「また、秘密のファンからの贈り物?」
振り返ると、入り口にラーガヴが立って微笑んでいた。
「どうしてわかったの?」
「だって、贈り物を見た瞬間に、理由もなく笑顔になるからさ」
私はすぐに真顔に戻った。
「笑ってなんかないよ」
「本当に?」
ちょうどその時、アーリヤが教室に入ってきた。
彼女は私を見た。
それから、私のポケットに視線を移した。
そして何も言わずに、自分の席へと歩いていった。
その口元には、あの時と同じ、かすかな笑みが浮かんでいた。
確信した。
贈り物をしてくれていたのは、彼女だったんだ。
でも、彼女自身がそれを口にすることはなかった。
私も、あえて尋ねたりはしなかった。
もしかすると、言葉にしない方がいいこともあるのかもしれない。
---
科学プロジェクトの発表の日、私たちのチームは1位を獲得した。
クラス中から拍手が湧き起こった。
先生は微笑んで言った。
「二人とも、よく頑張ったね」
私は「ありがとうございます」と言って、その場を後にした。
アーリヤが私の隣を歩いていた。ふと、彼女が低い声で尋ねた。
「もし、あなたと一緒にプロジェクトをやっていなかったら……」
「……あんなふうに、気楽に話せるようになっていたかな?」
私は少し考えた。そして、笑いながら言った。
「たぶん、違うな」
「じゃあ、努力しなきゃいけなかったのは私ってこと?」
「そう」
「で、君は何をしたの?」
「逃げた」
彼女は吹き出した。
「歴史上、最初の男かもね……」
「……男じゃなくて、女の子が追いかけるなんて」
僕は微笑んで言った。
「たぶん、最後の一人でもあるだろうね」
---
放課後、校庭の脇を歩いていると、ベンチに一人で座っているアーリヤの姿が見えた。
風が強く吹いていた。
木々から枯れ葉がひらひらと地面に舞い落ちていた。
僕は彼女の隣に座った。
しばらくの間、僕たちは黙ったままだった。
やがて僕は尋ねた。
「今日はどうしてそんなに静かなの?」
彼女はまっすぐ前を見つめたまま言った。
「なんとなく」
「嘘だ」
彼女は僕の方を向いた。
「どうしてわかるの?」
「だって、今日は一度も僕をからかってないから」
彼女はかすかに微笑んだ。
「気づいてたんだ?」
「うん」
彼女は深呼吸をした。
「アーリヤン……」
「ん?」
「聞いてもいい?」
「どうぞ」
「もし明日から、私があなたを追いかけるのをやめたら……」
「……どうなる?」
僕は彼女の瞳を見つめた。
昔のアーリヤンなら、たぶんこう言っただろう――
「それは最高だね」
でも今は……
今は、答えが変わっていた。
僕は静かに言った。
「そしたら、僕が君を探しに行かなきゃいけなくなる」
彼女はしばらく僕を見つめていた。
やがて、彼女の瞳がゆっくりと輝き始めた。
「本当?」
「うん」
「どうして?」
僕は微笑んだ。
「もう慣れちゃったから」
「私に慣れたの?」
「いや……」
僕はわざと真剣な顔つきをした。
「……その『厄介ごと』に慣れたんだ」
彼女はふざけて僕の肩を小突いた。
「バカ」と笑う。
「本当だよ」
「本当に?」
「君がいると……」
「……学校が少し退屈じゃなくなるんだ」
彼女は何も言わなかった。
ただ、優しく微笑んでいた。 ---
年に一度の送別会の日がやってきた。
学校全体が色とりどりの飾り付けで彩られていた。
誰もが写真を撮り合っている。
友人同士、互いのシャツにサインを書き合っていた。
ふと、ラーガヴが僕のほうへ歩み寄ってきた。
「アーリヤン」
「ん?」
彼は小さな封筒を僕のポケットに滑り込ませた。
「これを君に渡してくれって頼まれたんだ」
「誰に?」
彼は微笑んで、遠くを指差した。
アーリヤが木の下に立っていた。
僕は封筒を開けた。
中にはたった一行、こう書かれていた――
「今日が最後のチャンス。もし言いたいことがあるなら……言って」
僕は顔を上げた。
アーリヤはまだそこに立っていた。
そよ風が彼女の髪を優しく揺らしていた。
初めて、あれこれ考えすぎることなく、僕は彼女の方へ歩き出した。
近づく僕を見て、彼女は微笑んだ。
「ずいぶん時間がかかったね?」
「迷ってたんだ……」
「何を?」
「逃げ出すか……それとも、こっちに来るか」
「それで?」
「今日は逃げ出したくなかったんだ」
二人で小さく笑い合った。
一瞬の沈黙が流れた。
そして僕は言った。
「一つ、言ってもいい?」
「うん」
「君が初めて僕のベンチに座ったとき……」
「……僕に関わらないでくれって、心の中で神様に祈ってたんだ」
彼女は笑って言った。
「知ってるよ」
「どうして?」
「顔を見ればわかったから」
僕も笑った。
「でも今は……」
僕は彼女を見つめながら言った。
「……もしある日、君が学校に来なかったら……」
「……真っ先に探してしまうのは君なんだ」
彼女の笑顔がゆっくりと消えていった。
彼女は黙って僕の話を聞いていた。僕は続けた。
「君が僕の平穏を奪ったんだと、ずっと思ってた」
「でも……」
「……実際には、君が僕の人生に笑いを取り戻してくれたんだ。すっかり忘れてしまっていたものをね」
アーリヤの目に涙が浮かんだ。
彼女は静かに尋ねた。
「じゃあ……まだ私と関わりたくない?」
僕は首を横に振った。
「もう、そんなことはないよ」
「じゃあ?」僕は少し微笑んで言った。
「もし君が毎日僕のところに来てくれるなら……」
「……君と一緒に人生を歩んでいけるかな?」
彼女は数秒間、僕を見つめた。
そして突然、彼女は吹き出した。
涙がこぼれ落ちるほど、激しく笑った。
僕は心配になった。
「ねえ……何か変なこと言った?」
彼女は首を横に振った。
「ううん……」
「じゃあ、なんで笑ってるの?」
彼女は涙を拭い、笑顔で言った。
「だって……」
「……思ってたから……」
「これを理解するには、少なくともあと一年はかかるわね」
僕は照れくさそうに頭をかいた。
「そんなに鈍くはないよ」
「そう?」
「ううん」
「そうよ」
「……まあね」
僕は笑った。
「……少しは、そうかも」
彼女は微笑んだ。
そして、何も言わずに僕の方へ手を差し出した。
僕はその手を取った。
「もう逃げない?」
彼女が尋ねた。
僕は空を見上げ、それから彼女に視線を戻した。
「逃げないよ」
「本当に?」
「うん」
「どうして?」
僕は微笑んで言った。
「だって、今はわかったから……」
「……誰かが現れるのは、邪魔をするためじゃないってこと」
「……僕らのありふれた日常を、美しいものにするために来てくれるんだってこと」
アーリヤは優しく僕の手を握りしめた。
「行こうか?」
僕は頷いた。
「行こう」
今度は、二人で同じ道を歩いていた……。
かつて、彼女から逃げるために走った道。彼女に会うために、毎日ルートを変えていたあの道を。
僕らの後ろに立っていたラーガヴが、二人に向かって微笑みながら呟いた。
「ついに……
脇役の彼が、ヒロインを見つけたんだな」
そして、たぶん……
あの日、僕は初めて気づいたんだ……。
ある人たちから逃げてしまうことの、一番の罰は……
二度と彼らを見つけられなくなることなんだ、と。
完。
もしこの物語が少しでもあなたの心に残ったなら、ぜひ応援していただけると嬉しいです。
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あなたのほんの小さな応援が、この物語をまだ出会っていない誰かへ届けてくれるかもしれません。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。




