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第3話:一筋の希望と絶望

第3話:一筋の希望と絶望


王都へと向かう帰路。行きは猛々しい威勢駆った女騎士たちだったが、今は徴発した一台の馬車の中で、重苦しい沈黙に包まれていた。


その中心にいるのは、かつての勇壮な姿を失い、一歳半の赤ん坊へと変えられたマキだ。


セシリア「……信じられん。あんな卑劣な魔法が、この世にあるなんて‥‥」


副長のセシリアが、悔しさに唇を噛み締めながら、膝の上にマキを仰向けに寝かせた。


マキの意識は二十三歳の団長のままだ。部下たちの同情の視線、そして何より、自分を赤ん坊として扱うその手つきが、彼女のプライドを絶え間なく切り刻む。



シルフィ「マキ様、冷えないように包みますね」


回復魔道士のシルフィが、マキの小さな身体を布で包む。


「あ……う、あぁぁぁっ!!」


(やめろ……あまり触れるな! !)


心の中の絶叫は、幼い喉を通ることで、ただの甘ったるい嬌声へと変換される。


「マキ様……? お顔が真っ赤だ。熱でもあるのだろうか?」


心配したセシリアが、あやそうと頭を優しく撫でた。


「ひぅっ……あ、あぐぅ……っ!!」


(私は……王国騎士団長、マキ・クロフォードだ……! 部下に抱き抱えられて……頭を撫でられるなんて……っ!!)


王都に辿り着く頃には、マキは何度も繰り返される屈辱の連続で疲れ果て、ぐったりと力なく部下の腕に身を預けていた。



ガタゴトと揺れる馬車の隅、セシリアたちは今回の強行軍と「団長を失った」という精神的な疲労から、深い眠りに落ちていた。


その中で、一人だけ冴え冴えとした瞳でマキを抱きかかえていたのは、最年少の天才魔道士・リノだった。


リノの小さな手のひらが、マキの丸い頬をそっと撫でる。


(あ、あぁ……っ。リノ、やめろ……触るな‥‥恥ずかしい……っ)


マキが心の中で絶叫していたその時、脳内に鈴を転がすような少女の声が直接響いた。


『――マキ様、聞こえますか?』


マキは、リノの腕の中でハッと目を見開いた。


リノの思念『もし意識が二十三歳のままなら……私のこの魔導波に波長を合わせてください。これで私となら、誰にも邪魔されず思念で会話が可能になります』


絶望の淵にいたマキにとって、それは一筋の光明だった。マキは必死に、残されたわずかな精神力をリノの意識へと接続した。


マキ『……リノか。聞こえる……。意識は二十三歳のままだ、リノ。……助かった。このまま、赤ん坊として言葉を失うかと思ったぞ』


リノの瞳が、歓喜と、そしてどこか歪んだ慈しみの光で潤んだ。

リノにとって、マキは憧れの対象であり、同時に「自分だけのものにしたい」と密かに願ってきた唯一無二の存在だった。


リノの思念『やはり……。マキ様、あなたは二十三歳の意識があったのですね、私の腕の中で、マキ様の心臓が壊れそうなほど速く打っていたので分かりました』


リノの指先が、わざとらしくマキの首筋を優しくなぞる。


マキ『ひうっ!? ……ぁ、あ……リノ、貴様……さわるな……っ!』


リノの思念『そんなこと言わないでください、マキ様がそんなに恥ずかしがってる姿を見て可哀想だと思っただけです』


リノの思念は、普段の大人しい彼女からは想像もつかないほど、熱を帯びていた。彼女は眠っている先輩騎士たちを一瞥し、さらにマキを抱きしめる力を強める。


リノの思念『マキ様。二十三歳の誇り高いあなたの心が、一歳半の身体になって震えている……。それを分かってあげられるのは、今、世界で私だけです。……ねぇ、マキ様。もっと私に、あなたの「可愛らしい声」を聴かせてください』


『何を……っ、やめろ、リノ! 私はお前の、上官だぞ……!』


マキの必死の抗議も、リノはどこ吹く風だ。リノは、マキを顔の位置まで抱き上げると、すかさず唇を奪った


『むぐっ……!!』


マキの小さな身体が、リノの腕の中で激しくジタバタ騒ぐ。


リノの思念『ふふ、すごい……。中身が大人の団長様のままだからこそ、このギャップがたまらないです。……大丈夫ですよ、マキ様。王都に帰っても、私がずっと「お世話」して差し上げますから。……ね?』


リノの幼くも残酷な慈愛に満ちた思念が、絶望に嘆くマキの意識を優しく、そして逃げ場のない闇へと塗りつぶしていった。


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