プロローグ5:不倒の狂犬と氷の女王
### プロローグ5:不倒の狂犬と氷の女王
勝負は、文字通り一瞬で決した。
セシリアが放つ猛烈な連撃は、木の葉をなぞるようなマキの身のこなしにすべて空を切り、次の瞬間、マキの木刀がセシリアの胴を真っ向から捉えた。
ドォン! と凄まじい衝撃音が響き、セシリアの体は校舎の壁まで吹き飛ぶ。背中を叩きつけられ、崩れ落ちるように尻餅をつく少女。
マキ「……いかん、やりすぎたか」
(しまった、つい反射的に本気で打ち込んでしまった。あのアカデミーの壁を凹ませるほどの威力……並の人間なら即死か重体だぞ……)
顔を青くして駆け寄るマキ。しかし、土煙の中から聞こえてきたのは、絶望の悲鳴ではなく、魂の底から湧き上がるような狂気じみた笑い声だった。
セシリア「……ふ、フハハハ!! 強い! やはりあんた、めちゃくちゃに強いではないか!! ハハハハハハ!!」
マキ「……なっ?」
セシリア「アカデミーの連中は弱すぎて、本気なんぞ一度も出せなかった! だが本気でぶつかってこれだぞ!? こんなに面白いことが、この世にあるのか!!」
ケロッと立ち上がり、腹を抱えて笑い飛ばす金髪の少女。その異常なまでの頑強さと、敗北を「極上の娯楽」に変える精神性。マキの脳裏に「セシリア・ローランド」という名が鮮烈に焼き付いた瞬間だった。
校長「マキ閣下、誠に、誠に申し訳ございませんでした!! あの狂犬には後ほど厳重な処罰を……!」
マキ「……いや、処分は不要だ。それより、予定通り資料室へ案内してくれ」
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### アカデミー資料室
冷や汗を拭う校長に案内され、重厚な扉が開かれる。だが、そこにはすでに先客がいた。
窓際で分厚い書物を片手に、一心不乱に文字を追う人影。
校長「お、お前は……カレン! なぜここに!? 貴様も謹慎中のはずだろう!!」
「……はぁ。やっとこの部屋が開いたと思ったら、外はドタバタ騒がしいわ、このハゲの声は鼓膜に障るわ……。少し静かにしてくださらないかしら?」
校長「こ、こいつはまた私をハゲ呼ばわりしおって!! 少し頭が良いからと調子に乗るな!!」
「あと三冊読めばすべて暗記が終わるから。それまで本当に黙っていてくれるかしら、ハゲ」
肩までの銀髪に、知性を象徴するような分厚い眼鏡。冷徹な瞳を本から離さぬまま、少女は淡々と言い放つ。
やがて最後の一冊を閉じると、彼女はようやくマキをチラリと見た。
「読み終わったからもう帰るわ。この低レベルな学校で唯一まともな資料がある部屋だと思って期待していたけれど、あまり大した内容はなかったわね……」
校長「き、貴様!! 誰の前で無礼を働いているか分かっているのか!?」
マキ「……校長、下がっていてくれ。その生徒と話をしたい」
一歩前に出たマキは、少女の瞳の奥に宿る「飽くなき知識への渇望」を見逃さなかった。
マキ「私はマキ・クロフォード。一応、騎士団長を任されている。……貴殿の名は?」
「……私はカレン・シュナイゼル。騎士団長様が、私に何か御用かしら?」
後に「冷徹なる氷の大軍師」として大陸全土の戦局を盤上で支配することになるカレン・シュナイゼル。
大陸最強の矛と、最強の頭脳が交差した、運命の1ページであった。




