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第5話:騎士団長さまとバスタイム

第5話「騎士団長さまとバスタイム」


育児部屋の一角は、今や王宮図書館の禁書庫さながらの光景となっていた。床から天井まで、時魔法に関する古びた羊皮紙や、失われた言語で書かれた魔導書が積み上げられている。


リノは食事の時間さえ惜しむように、一心不乱に資料をめくっていた。その隣では、一歳半の身体となったマキが、よちよちと歩いては一冊の重厚な本を膝に乗せ、お座りをして内容を確認している。


見た目は愛らしい幼児が絵本を読んでいるようだが、その瞳には二十三歳の賢明な将としての光が宿っていた。


マキ『リノ……いつも本当にすまない。育児だけでも大変なのに、私を元に戻すための研究まで一手に引き受けてくれて……』


マキの申し訳なさそうな思念に対し、リノは本から目を離さずに応えた。


リノ『マキ様をお守りするはずの魔道士である私があの日、もっとしっかりしていれば……。謝らなければならないのは、こちらの方です。マキ様のその小さな背中を見るたびに、胸が締め付けられる思いなんですよ』


リノの言葉には、一点の曇りもない忠誠心が溢れているように聞こえた。マキは、少しだけ目を細めてリノの横顔を見つめる。


マキ『しかし、少しは息抜きをしないと身体を壊すぞ。根を詰めすぎるのは良くない』


リノ『……ありがとうございます。ですが、この章の解読が終わるまではさせてください。キリの良いところまで進めないと、落ち着きませんので』


その献身的な姿に、マキは深く自省した。



(私は……なんて愚かなのだ。リノのことを、欲望に忠実なだけの変態だなどと一瞬でも疑ってしまった。彼女は、これほどまでに私のために心血を注いでくれているというのに。私を愛でるような振る舞いも、きっと私の沈んだ心を和ませるための彼女なりの不器用な優しさだったに違いない……)


マキが騎士団長としての信頼を完全に取り戻し、リノへの感謝を新たにしていた、その時だった。


リノ「――あ、ちょうどキリが付きました。マキ様、息抜きしましょうかね」


パタン、と本を閉じたリノが、天使のような微笑みを浮かべてマキをひょいと抱き上げた。


マキ『そうか、それは良かった。少し庭園でも散歩して、外の空気でも――』


リノ「ええ、お外もいいですけど……まずは、たっぷり汗をかいた身体を綺麗にしましょう。お風呂に行きますよ、マキ様」


マキ『な、何を……っ! 待て、リノ、風呂くらい一人で――むぐっ!?』


抗議しようとしたマキの小さな唇が、再びリノの熱い唇で塞がれた。

二十三歳の知性が「やはりこの娘は……!」と警鐘を鳴らすが、時すでに遅し。


リノ「んっ、ちゅ……っ。ふふっ、マキ様……だーいすきっ。二人きりのお風呂、楽しみですね? 隅々まで、優しく、じっくり……洗って差し上げますから」


リノの瞳は、研究で疲れているはずなのに、獲物を見つけた肉食獣のような怪しい輝きを放っている。


マキ(この、狡猾な天才魔道士め……! 勉強していたのは、演技か、それとも……っ!)


抱きかかえられたマキの身体は、リノの腕の中で早くも恐怖

の予兆に震え始めていた。一歳半の無垢な肉体と、二十三歳の屈辱に塗れたプライド。マキは今度こそ、逃げ場のない「秘密のバスタイム」へと連行されていくのだった。



湯気と石鹸の香りに満ちた王宮のバスルーム。リノは慣れた手つきで、一歳半の幼児へと変貌したマキを湯船の縁に座らせた。


リノ「……マキ様、お湯加減はどうですか?」


リノはそう言いながら、たっぷりと泡立てたスポンジをマキの小さな肩に乗せる。滑らかな肌を滑る泡が敏感な赤ん坊の肌を撫で、マキは「ひぅ……っ」と身を震わせた。


マキ『リノ……お前というやつは……。これでは研究どころか、お前の欲望を満たしているだけではないか』


マキが呆れたような、しかしどこか力ない思念を送ると、リノは少しだけ寂しげな、真剣な瞳でマキを見つめ返した。


リノ「……マキ様。私、ずっと前から……あなたが騎士団長に就任したあの日から、憧れていたんです。凛としていて、誰よりも強くて、美しくて。……その身体をいつかこの手で洗わせていただくのが、私の密かな夢だったんです」


リノの手が、今はふっくらとした「膨らみ」でしかないマキの胸を、慈しむように撫で回す。


リノ「あの戦いの日……私の魔法がもっと完璧なら、あなたはこんな姿にならずに済んだ。……悔しくて、不甲斐なくて。だから、せめて今だけは、こうしてあなたに尽くさせてください。……大好きなんです。心から」


リノの潤んだ瞳と、嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。マキは再び、激しい自省に襲われた。


(私は……なんと心の狭い女だ。リノは、私への純粋な崇拝と、自責の念からくる献身を、彼女なりのやり方で表現しているだけなのだ。思春期の少女特有の、行き過ぎた愛情表現を、私は邪推してしまった……)


マキ『……すまない、リノ。お前の真心を疑ってしまった。お前も辛かったのだな……』


マキが思念で優しく語りかけ、リノの手に自分の小さな手を重ねようとした――その瞬間だった。


「――あぁ、でも! 今はこのちいさな身体も、すごく、すっごく可愛いです! 騎士団長時代のあの大人のエロさも最高でしたけど、この無垢でちんまりした感じ……たまんないですよ! ほら、ちょっと触っただけでこんなにプルプルして……っ!」


マキ『……っ!? あ、ああぁぁぁぁっ!! リノ、貴様ぁぁぁ!!』


リノの瞳には、先ほどの「健気な乙女」の影など微塵もなく、そこにあるのは、獲物を隅々まで愛で尽くそうとする「変態天才魔道士」の剥き出しの興奮だけだった。


(騙された……! こいつ、私の罪悪感を利用して、やりたい放題やっているだけだ……っ!)


リノ「マキ様、お顔が真っ赤! ピカピカに磨いて差し上げますねっ!」


マキ「あ、う……あぶぅっ! ぁぅっ!!」


マキの絶叫は泡の中に消え、王宮のバスルームには、リノの悦びに満ちた笑い声と、翻弄される一歳半の団長の甘い悲鳴が響き渡り続けるのだった。

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