第4話:王都への帰還と育児部屋
第4話「王都への帰還と育児部屋」
王都・ロザーリア城の謁見の間は、かつてない動揺と混乱に包まれていた。
「――以上が、辺境の村で起きた事態の全容にございます」
副長セシリアは、震える声で報告を終えた。彼女の腕の中には、王国騎士団の象徴である深紅の紋章が刻まれた布に包まれた、一人の赤ん坊がいる。
「な、なんということだ……。これが……王国最強の剣士、マキ・クロフォードだと言うのか!?」
「馬鹿な! 国家の最高戦力が、このような……乳飲み子にまで退行させられるなど、前代未聞だぞ!」
玉座に座る若き国王ラーズ・アレクサンド王は顔を蒼白にし、立ち並ぶ大臣たちは口々に罵声と悲鳴を上げた。
彼らにとって、マキ・クロフォードは「勝利の女神」であり、その彼女が「一歳半の全裸の幼児」として帰還したという事実は、安全保障の崩壊を意味していた。
マキはセシリアの腕の中で、その騒ぎを冷徹な23歳の知性で見つめていた。
マキ(騒ぎすぎだ、愚か者共が……。だが、無理もない。今の私は、剣を握るどころか、自分の排泄すらままならぬ身なのだから……)
屈辱で唇を噛もうとするが、乳歯が生え揃わぬ柔らかな歯茎ではそれさえも虚しい。
その時、リノがマキにだけ聞こえる思念を送った。
リノ『……マキ様、見てください。あんなにあなたを崇めていた大人たちが、今はあなたを「壊れた道具」のように見ています。……悲しいですね』
リノは一歩前へ出ると、国王の前で深々と頭を下げた。
リノ「陛下、マキ様の魔力波形を分析した結果、この呪いは極めて特殊で、安易に外部の者が触れればマキ様の命に関わります。つきましては、魔法の特性を理解している私、リノが、マキ様の『専属育児担当』として、24時間体制で監理・保護することを志願いたします」
国王「おお、天才魔道士のリノか! 確かに、お前ならば適任かもしれん」
「異議なし! 他の騎士たちは警備に回せ。マキ殿の世話はリノに一任しよう」
大臣たちは、厄介払いができたと言わんばかりに賛成した。セシリアたちは不満げな表情を見せたが、魔道知識においてリノに及ばない彼女たちは、黙り込むしかなかった。
こうして、マキの身柄は公式にリノの支配下に置かれることとなった。
リノはセシリアからマキを受け取ると、その小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
リノ『――やりましたね、マキ様。これで、誰にも邪魔されません』
マキ「あ……う、あぁ……っ!()」
リノはマキを大臣たちの前に高々と差し出して見せる、顔を真っ赤にして恥ずかしがるマキはリノの胸に顔を埋めて隠れた。
リノ「見てください陛下。マキ様も私に抱かれて安心していらっしゃいます」
リノは天使のような微笑みを浮かべ、中身は屈辱と羞恥で発狂しそうな騎士団長を連れて、彼女専用に用意された「保育室(牢獄)」へと歩き出した。
王宮付近にある騎士団本庁、その隣には魔道研究所があった。魔道士師団長であるリノが管轄する施設だ。
その魔道研究所の奥深くに用意された、広々とした育児室。厚い石壁と強力な結界に守られたその部屋で、リノはマキを柔らかなベッドの上にそっと降ろした。
周囲に人の気配がないことを確認すると、リノはいつもの、どこか幼さの残る真面目な表情に戻り、マキの目を見つめた。
リノ『……マキ様。改めて、このような事態になってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。あの時、私の力が及んでいれば……』
リノの真摯な思念が脳内に響き、マキは少しだけ強張っていた心を解いた。
マキ『よいのだ、リノ。相手が悪すぎた……。それよりも、リノが専属になってくれて助かった。他の部下たちや国王の前で、この無様な姿を晒し続けるのは苦痛だった。……道中、あのように私を「刺激」して周囲を誤魔化したのも、私の尊厳を守るための咄嗟の機転だったのだろう? すまない、疑うような真似をして』
マキは、リノが自分を独占しようとしていたのではなく、騎士団長としての威厳を(形だけでも)守るために、あえて自分が悪役を買って出たのだと解釈したのだ。
マキ『これまでの恥ずかしい醜態と私の意識が二十三歳だという事は、リノ、お前と私だけの秘密にしておいてくれるか?』
リノ『もちろんです、マキ様。誰にも……一言も漏らしません。これからのことも、全部、私たち二人だけの秘密です』
リノの優しい言葉に、マキは一歳半の幼い顔で、安堵の微笑みを浮かべた。
マキ『感謝する、リノ。お前がいてくれて本当に良かった……。元の姿に戻る方法を、共に探ってくれ』
マキが心から信頼を寄せ、その小さな手でリノの指を握りしめた、その時だった。
「――んっ……」
唐突に、視界がリノの顔で埋まった。
柔らかな、しかし逃れられない熱を持った唇が、マキの小さな唇を塞いだ。
マキ「ん、むぅ……!? ぁ……ん、んぅ!!」
思念ではなく、現実の生々しい接触。リノの舌が、まだ幼いマキの口内をねっとりと侵食し、混乱する神経をダイレクトに焼き焦がす。
リノ「ふはっ……。あはは、マキ様。……私、言いましたよね? 『二人だけの秘密』は誰にも言わないって」
リノは顔を離すと、蕩けたような、それでいて底知れない執着を孕んだ瞳でマキを見下ろした。その頬は赤く染まり、先ほどまでの「真面目な部下」の仮面は完全に剥がれ落ちている。
リノ「これから……この部屋で、私とマキ様だけで、誰にも言えない秘密を『たくさん』作れますから……っ! 楽しみですね、マキ様?」
マキ『あ、ああぁぁぁっ!! リノ、貴様……っ! まさか最初から……っ!?』
リノ「大好きですよ、マキ様。……大人の頃のあなたには届かなかったけど、今のあなたなら、私が一から『教育』して差し上げられますもの」
マキの絶望的な叫びは、リノの唇がもたらす激烈な接吻の濁流に飲み込まれ、甘い、甘い赤ん坊の鳴き声へと変えられていった。




