第七話:『楽園の真実』(完結)
白光が収まった教室には、ただ静かな放課後の陽光が差し込んでいた。
中心には、元のアバターのまま、力なく横たわるヒナコの姿。
駆け寄ったルナが彼女を抱き上げると、ヒナコはゆっくりと目を覚ました。
「……あれ? ルナちゃん。私、何を……」
『魔』を撃ち抜かれ、元の姿に戻ったヒナコには、犯行の記憶はない。
だが、襲われた少年たちの恐怖は消えなかった。
「そんな、嘘だ! 俺たちを殺そうとしたのはこいつだぞ!」
クラスメイトの少年が、周囲の生徒に掴みかかる。だが、修復されたシステムログに異形の記録はない。
「……大丈夫か?ヒナコが異形なんて、そんなわけないだろ。こいつ、頭おかしくなってるよ」
「俺が嘘つきだって言うのか!? ふざけんな!認めさせてやる……こいつを、白状させてやる……!!」
その瞬間だった。ルナの視界が切り替わった。
喚き散らす少年の胸元、その心臓のあたりから、「黒いガラス片」が鋭く突き出してきた。
歪んだ自己正当化と、剥き出しの加害衝動。
今まさに、新たな『魔』が生成されたのだ。
「――あぶなっ!」
少年が逆上してコンパスを振り上げた瞬間、ワクが弾丸のような速さで踏み込んだ。
「……現認だ」
ガギィンッ!!
ワクの銀色の警棒が、少年の胸から生えかかった「黒いガラス片」を真っ向から叩き割った。
砕け散る黒い破片。少年は衝撃に目を見開き、そのまま糸が切れたように床にへたり込んだ。
「……な、に……?」
ルナは息を呑んだ。少年の胸には、もうガラス片はない。ワクが「発症」の前に直接破壊したのだ。
だが、エマも、周囲の生徒も、何が起きたのか全く理解していない。
「……ルナ。見た通りだ」
ワクが警棒を収め、冷徹に告げる。
「……ここは、『楽園』などではない。悪意というものは、どこであろうと存在する」
ルナは震える足で立ち上がり、教室を、そして窓の外の街並みを見渡した。
見えてしまった。
下校する生徒たちの胸に。優しく微笑み合う恋人たちの背中に。
まばらに、けれど確実に、あの「黒いガラス片」が突き刺さっている。
「エマ……これ、は何? この人たち、みんな……」
『……ルナ様? 何を仰っているのですか。皆さん、健全なスコアを維持されていますよ。さあ、今日はもう帰りましょう?』
エマの慈愛に満ちた声が、今はただ、不気味なノイズのように響く。
安全なはずだったシステム。
正義を執行するはずの、正体不明のパートナー・ワク。
そして、自分だけが視認してしまった、このVR世界の「末期症状」。
「……私、どうすればいいの……?」
ルナの絶望を嘲笑うように、聖エデンの夕日は、どこまでも完璧に美しく輝き続けていた。
(――続く)
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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~ハーメルン編~
に続きますので、良ければこちらもお読みください。




