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短編集

【短編】将来魔王を継がせたい息子に人間の家庭教師をつけたんだが、多分こいつスパイ

作者: 鶴嶌大晩

吾輩は魔王だ。年齢は200近い。現在絶賛人間との戦争中で、魔王城にて戦況を逐一確認しながら部下の魔族たちに色々な命令を出している。


吾輩には息子がいる。まだ齢50にも満たないのだが・・・まあ魔族におけるこの年代はまだ子供で、人間でもあるような思春期にあたりのだが。今はなかなか吾輩と口をきいてくれない。


妻である魔王妃は「あの年頃の子だとよくあることだから気にするな」とよく言ってくるが。しかし息子は次期魔王になる男。しっかりと帝王学を学ばせないと人間を倒して世界征服を成し遂げることができないはずだ。


しかし吾輩の抱えている大きな不安は『息子が口をきいてくれない』ということではない。


人間を倒すために、むしろ逆転の発想として息子の担当に就かせた人間の家庭教師。その男は吾輩の部下との戦いの中で突然降伏をし、「人間は愚かだ。聡明な魔族の仲間になりたい」と言って魔王城へと連行されてきた。


当然優秀な吾輩はそれを怪訝に思い即刻の処刑を提案したのだが。


「あら良い男だこと。ねえ貴方、この人間は殺さないで魔王城で働かせてあげましょうよ?」


男の顔を一目見た妻は何とこう提案してきて、あろうことか魔王城内でメイドをしている淫魔軍団もそれに賛同し、処刑は免れてしまったのだ。


おまけにその男の処遇についても妻が「せっかくだから侍従にして目の保養にしましょう」などと言い始めたので吾輩は困惑。喧々諤々の末、吾輩の息子の家庭教師となり、人間について学ばせるという運びになった。


現在この男・・・名はファルナトという彼は特に大きな問題を起こすことなく業務に励んでいる。


しかしこの優秀な魔王である吾輩はお見通しなのだ。


多分こいつ。人間側がこちらに送り込んだスパイに違いない。



「それでは只今より、『人間社会の理解』についての講義を始めましょうか。お坊ちゃま」


「はい。ファルナト先生」


息子の部屋。机に座っている息子の隣には、ブロンドの髪をなびかせているファルナトが立っている。


吾輩はとても凄い魔王なので、息子の部屋に監視魔術をかけることも容易いことだ。プライバシー?魔族にそんなものはない。


とは言え、この魔術を息子の部屋にかけたのは初めてだ。


これは魔術をかける場所に直接行かなければ発動できないものであり、吾輩が息子の部屋に入ろうとすると、魔王城のどこにいてもすぐに妻が飛んできて止められてきた。


だが今日、妻は仲の良いマダム魔族たちとお茶会に出かけているからこの魔王城にいない。


おまけにメイドの淫魔たちにもなけなしの小遣いを渡し、自分が息子の部屋に入ったことは黙っておくように命令を下しておいた。・・・しぶとく交渉されて当初渡した金額よりもだいぶ上乗せされてしまったが。


しかしこれで監視魔術をかけることができた。そもそもこれは息子を想ってのことであり、多分スパイであるファルナトの正体を突き詰めるためなのだ。


「・・・つまり人間というのは同じ種族で争う生き物なのです。魔族との膠着状態を崩せないのも、なかなか一致団結しないのがその大きな要因なのです」


「なるほど。様々な種族が結束している僕らとは大違いなのですね」


講義が始まって30分。思った以上に円滑に勉強は進んでいるようだ。


だがファルナト。多分お前はスパイだ。きっと魔族軍について探るような質問を幼気な我が息子にするのだろう。そうだろう!


「ところで・・・。魔族軍の幹部・ケンタウロスのデホーロ将軍が今、どこにいるかご存じですか?」


!!!


やはりそうかファルナト!デホーロは我が軍の『幹』とも言えるほどの男、彼の居場所を突き止めて情報を流し、人間側の攻勢に加担しようとしているのだろう!!!


「え?デホーロ将軍の居場所ですか?う~ん。僕には分からないですね・・・」


よしよし。そもそも息子は細かい戦術のことは知らないし、残念だがファルナトの悪だくみは成就しないようだな。しかしこれは証拠のひとつだ、後で尋問しよう。


「そうですか。仕方ありませんね」


「ごめんなさいファルナト先生・・・」


ふんっ、そんな簡単に魔族軍のことを知れると思うなよ?それと我が息子よ。そんな金髪ヒョロヒョロ人間に敬語使うな。謝罪などする必要も無い。何故ならお前は高貴なる我が魔王族期待のホープなのだからな。


「そうだ!今から魔王城にいる誰かに聞いてきましょうか!」


おいコラ高貴なる我が魔王族期待のホープ。何の提案をしているんだお前は。


「・・・お願いできますか?」


お願いするな。


「ええ、もちろん!」


そんな元気に返事するなよ息子。最近そんな笑顔吾輩にも見せないだろ。顔を見合わせたら舌打ちするだろお前。


「だってファルナト先生には人間社会の色々なことを教えてもらっていますから!この前だって『第5回・家庭教師ファルナトが選ぶ!美人魔法使いベスト10』の講義をしてくれましたし!」


お前ら何やってんの?しかもそれ第5回なの?トータルで50人も紹介してんの?バカなの?


それに何だ息子、そんなに目をキラキラさせるな。表情を明るくするな。尊敬の眼差しをファルナトに向けるな。


「あの時は楽しかったですね。お坊ちゃまも『第7回・魔王の息子が選ぶ!美人淫魔ベスト20』の講義をしてくださいましたし」


息子の方がトータルで90人多いじゃねえか。真面目に勉強しろよ。


「ただお坊ちゃま。私はどうしてもデホーロ将軍の居場所が知りたいのですが・・・厳しいですか?もし教えてくだされば『第1回・家庭教師ファルナトが選ぶ!色気たっぷり女戦士ベスト10』を発表しようと思ったのですが・・・」


「!!・・・いえ、僕に任せてください。僕が魔王城の中にいる誰か詳しい者に聞いてきます!」


え?だから何を提案してるの我が息子?負けたの?下心に負けたの?


「本当ですか?」


「本当です!」


本当じゃねえよ。


「それは助かりますね」


「ははっ!良かったです!」


助かるなよ。良くねえよ。


「それじゃあ今から行ってきます!すぐに戻ってきますから!」


おいおい息子よ。本当に行くの?え?誰のところ行くの?マジで行くの?情報流しちゃうの?


だが吾輩の願いも虚しく、息子は部屋を飛び出してしまう。映像は見えないが廊下を走る音だけが吾輩の耳に寂しく届くのだ。


それからすぐ。


「・・・父上。少しお時間よろしいでしょうか」


吾輩がいる部屋の大きな扉が静かにノックされ、息子の声が響く。


えーっと・・・。ホント色々とマジ?


驚きのあまり閉口してしまう吾輩だが、それでもゆっくりと移動して扉を開く。


「父上。少々お尋ねしたいことがございます。・・・僕は次期魔王として現在の魔族軍の動きを把握したいと思っておりまして。偉大なケンタウロス・デホーロ将軍とその部隊は今どこにいるのでしょうか?」


見たこともないほど真剣な瞳を向けながら。


「父上・・・」


その背後に、思春期特有の下心を抱きながら。


息子の覚悟は本物だ。ここ最近全く言葉を交わしてこなかったのだが、久々に息子が吾輩と目を合わせてくれている。


「我が息子よ・・・」


微かに喜びを感じ・・・しかし思い切り怒りを込めて。吾輩が叫ぶ。


「そんなこと・・・教えるわけないだろうが!!!知ってんだよ!!!どうしてそれを聞こうと思ったのか、全部知ってんだよー!!!」


それから吾輩の説教は続いたのだが、じきに妻が帰ってきて、何故だか吾輩が怒られるフェーズに移行した。


どうやらメイド淫魔軍団が簡単に裏切って妻に告げ口をしたらしい。渡したの、無駄金だったよ。


こうして魔王城の最上階にある吾輩の部屋が騒がしくなっていた中、ファルナトによる講義の時間は終わり、彼は妻が用意した魔王城内の自室へと戻っていった。


・・・しかし吾輩は見逃さなかった。


帰る直前、何とファルナトは吾輩が仕掛けた監視魔術を解く動きをしていたのだ!つまりあの者は吾輩の監視に気づいていた!


待っていろファルナト!いずれお前がスパイである証拠を揃え、必ず処刑してやるからな!


将来魔王を継がせたい息子に人間の家庭教師をつけたんだが、多分、いや絶対こいつスパイに違いない!

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