第一章第4部: 文明の輝き
男がこの村に足を踏み入れてから、二度目の春が訪れた。
文明の光をほとんど失い、半ば機械文明以前にまで後退していた村の生活は、男の助けによって目覚ましく改善された。
かつて失われかけていた電気・治水技術、衛生観念、農業技術といった基礎的な知識は、徐々に回復の兆しを見せた。
工業技術と呼べるものへの復興には至っていないが、村には男が想像していた以上に多くの備品が残り、小さな村のインフラ整備に必要な資源は容易に手に入った。
男の「問い」は、村の統治機構にまで及んだ。
それまで、単に力の強い者、知識のある者、声の大きい者に委ねられていた決定権は、少しずつ自治の仕組みへと組み込まれていった。
かつて風と砂の擦れる音しか聞こえなかった夜、今は遠くでポンプの微かな音が響く。
家々の窓からは、かつてなく明るい光が漏れ、人々の影が活発に動くのが見て取れた。
子供たちは日中、畑で水路の整備を手伝い、夜は男や村の年長者たちから、忘れ去られていた電気の配線や水の流れに関する知識を学んだ。
彼らの目は、新しい知識への渇望に満ちていた。
農業技術の改善は、収穫量を着実に増加させ、飢えの心配を以前よりも少なくした。
衛生観念の導入は、病気の発生率を劇的に低下させ、村全体の健康状態を向上させた。
男は直接手を下すことをほとんどせず、常に村人たち自身に考えさせ、行動を促した。
彼が示すのはあくまで「問い」であり、解決策は村人たちが自ら見つけ出すことを促した。
この変化は村の雰囲気にも及んだ。
かつて漂っていた諦めや無力感は薄れ、代わりに前向きな活気が満ちる。
人々は互いに協力し、知恵を出し合い、より良い未来を築こうと努めた。
男は、そのすべての変化を静かに見守る。彼の目的は、単に物資や技術を提供することではなく、失われた自立の精神を呼び覚ますことにあったのだ。
ユビは常に彼の傍らに静かに寄り添い、時折、青白い光を瞬かせて、男の意図を静かに補完しているようだった。
◇◇◇
この惑星のハビタブルゾーンは極めて狭い。
地球よりも寒冷な環境のため、惑星本来の自生植物はごくわずかだ。
植生は人類が持ち込んだ地球の植物がほぼ全ての生態系を占め、その範囲も赤道上のごく狭い地域に限定される。それ以外の場所は、ほとんどが荒涼たる不毛の土地が広がる。
かつてこの村を襲った武装集団は、この狭い居住可能地域を赤道に沿うように移動し、行く先々で略奪を繰り返してきた。
彼らは焼き畑農業のごとく、略奪の限りを尽くすと一定期間放置し、復興を待ってから再び襲撃にかかるという行動パターンを繰り返す。
したがって、この村が再び襲われるのは、ほぼ必然だった。
セオルは、自身の宇宙船の長距離センサーでこの集団の移動状況を監視した。
この集落と隣接する集落間はおよそ2000キロメートル離れ、この村の住人たちが持つ移動手段ではその距離を越えるのは極めて困難であり、経済的にも非効率だ。
「交易」という選択肢は事実上存在しない。それぞれの集落は独立し、自給自足するほかなかった。
セオルは宇宙船のブリッジで、ホログラムディスプレイに表示される武装集団の移動経路を凝視する。
赤い点として示される彼らの動きは、予測可能なパターンを描いていた。
村の復興が軌道に乗るにつれ、その活動はますます活発になる。彼らは資源の豊富な場所を嗅ぎつけ、そこへ向かう。そして、村が男の介入によって生命力を取り戻しつつある今、彼らの目は再びこの地に向けられるだろう。
ユビはセオルの隣に静かに佇み、青白い光を点滅させる。
その光はディスプレイ上のデータをなぞり、潜在的な脅威の大きさを強調するようだった。
セオルは顎に手を当て、深い思考に沈む。村人たちはまだ、迫りくる危険の全貌を理解していなかった。
彼らが日々懸命に築き上げてきた平穏な生活は、脆い均衡の上に成り立っている。
かつて、セオルは介入しない道を選んだ。
しかし、彼の「問い」は村に変化をもたらし、その変化は新たな問題を引き起こす可能性を秘める。
彼は武装集団を排除する力を持つが、それは彼の使命ではない。
村人に自立と自己統治の道を歩ませるのが彼の目的だった。
だが、目の前の脅威は、彼らが自力で対処するにはあまりにも大きい。
セオルは、新たな「問い」を村人たちに突きつける時が来たと悟った。
それは、彼らが自身の未来をどのように守るかという、根本的な問いかけとなるだろう。
◇◇◇
セオルからの直接的な警告がなくとも、村人たちは武装集団の脅威を十分に認識していた。
前回の襲撃の記憶は、彼らの心に深く刻まれていた。あの忌まわしい日、村のほとんどのリソースが奪われた。
食料の備蓄、わずかな工業製品、農具、そして何よりも貴重な水までが根こそぎ持っていかれた。
労働力であった男たちは容赦なく殺され、その死体は砂漠の風に晒された。
女と子供たちは、叫び声を上げながら略奪者の車両に押し込まれ、遠い荒野の彼方へと連れ去られたのだ。
あの地獄のような光景は、村人たちの悪夢に繰り返し現れた。武装集団の目的は明確だった。
彼らは破壊と略奪によって、村の自立を根底から打ち砕こうとしたのだ。
残されたのは、絶望と恐怖、そして途方もない喪失感だけだった。
男の助けを得て、村の生産力は確実に向上していた。
畑は以前よりも豊かに実り、水路は安定した水量を供給し、わずかながらも電力が利用できるようになった。
しかし、村人たちは、この改善が武装集団に立ち向かえるレベルではないことをよく理解していた。
彼らの武器は、錆びついた農具や手製の粗末な短銃に過ぎない。
対する武装集団は、旧式の、しかし確実に機能する自動火器と、移動に特化した改造車両を擁している。
彼らが再び襲撃すれば、村は瞬く間に蹂躙されてしまうだろうことを、誰もが知っていた。
村の長は、夜ごとに集会を開いた。
ロウソクの薄明かりの下、村人たちは重い沈黙の中で耳を傾ける。誰もが心の中で、迫りくる運命の影を感じ取っていた。
彼らの顔には、諦めではなく深い不安が宿る。
この脆弱な平穏が、いつまで続くのか。そして、その終焉の時、彼らは何を為すことができるのか。
セオルは、この状況を船のブリッジから冷静に観察していた。
彼のセンサーは、武装集団が村に近づくたびに、その移動速度と方向を正確に捉えている。
かつては遠い彼方の脅威であった彼らが、今や具体的な危険として村の地平線にその姿を現しつつある。
しかし、セオルはまだ直接的な介入はしない。
村人たちが自らの選択によって、この危機にどう立ち向かうのかを見届けることが、彼の「問い」の一部だからだ。
村の運命は彼ら自身の手に委ねられ、その選択の時が刻一刻と近づいていた。