表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/82

23:時東悠 1月26日17時05分 ②

「なに、なに。なんなの? あんたの友達? 信じられないんだけど!」


 ここまでまっすぐに驚く反応も、正直ひさしぶりだなぁ、と思いつつ、時東はにこにこと愛想良くほほえんだ。

 東京の街中だと、気がつかれたとしても隠し撮りがせいぜいなので。


 ――まぁ、知人の家にいるっていう状況とは、びっくり度は違うだろうけど。


「すみません、お邪魔してました」


 という申し訳なさ込みで笑いかければ、驚いていた顔がぱっと赤くなった。「やだ、あたし、すっぴんだった」なんて言いつつ。手櫛で髪を整え始めた彼女に、南が呆れた声をかけた。


「だから、勝手に人の家に入るなって言っただろうが。おまえ、もう三十だろ。落ち着きねぇな」

「ちょっと、まだ二十九なんだけど。というか、なんでここでそういうこと言うわけ? 本当そういうとこ!」


 デリカシーもなにもないんだから、と言い捨てたところで、長々とした溜息。ようやく興奮が治まったらしい。


「なんでって思ったけど、そういや、テレビのロケであんたのとこに来てたんだっけ。え? もしかして、そこからの付き合いなの?」

「……まぁ、そう」

「なによ、だったら教えてくれてもいいのに」

「やだよ。煩そうだもん、おまえ。実際、今、煩いし」


 にべもなく切り捨てる調子に、時東はそっと苦笑した。自惚れではなく、自分のことを配慮してくれていたのだと知っている。その時東を視線で示し、だから、と南が言う。


「こいつもいるし、麻美が手伝ってくれなくても問題ないから。春香、待ってるだろ」

「まぁ、それならいいんだけど」

「あと、それと、怒ってないっておまえからも言っといて。またすぐに遊べるから気にすんなって」


 その言葉に、彼女は悩ましそうに眉を寄せた。そうして、芝居がかったふうに、ひとつ溜息を吐く。


「あんたがそうやって甘やかすから、うちの娘の報われない初恋が終わらないのよね。この調子であの子が思春期に差し掛かったころに、あんたが結婚でもしてみなさい。ぐれるわよ」

「誰が」

「春香が、に決まってるでしょうが」

「そんなわけないだろ。そのうち、同級生を好きになるに決まって……」

「その台詞、去年も一昨年も聞いたんだけど?」


 姉弟のような会話は変わらずほほえましいはずなのに、なぜだか苦笑をすることができなかった。


 ――結婚。結婚、か。


「ねぇ、ちょっと。時東さん。この愛想のない男のなにがそんなによかったの」


 その声に、はっとして時東は表情を取り繕った。なんでもないふうに、ほほえむ。いつもどおりの、らしい顔で。


「落ち着くんです、ここ。それで、俺も南さんについつい甘えちゃってて」

「ここが?」


 信じられないと跳ね上がった声に、同意を示して頷く。この町が、というよりは、南の傍が、ではあるのだけれど。それは言う必要のないことだ。


「あたしからしたら、なにもないところですけどねぇ。東京の人から見たら、そんなものなのかなぁ」

「麻美」

「わかった、わかった。わかりました。帰るし、誰にも言わないわよ。安心しなさい」


 おざなりに南に言い放った彼女が、時東に向かい軽く頭を下げた。


「それじゃ、時東さん。面倒かけますけど、よろしくお願いしますね、それ」

「あ……、いや、その、俺で役に立つことであれば」

「やせ我慢ばかりする意地っ張りなんで、適当に手を貸してやってください」


 騒々しさの薄れた母親然とした態度に、曖昧に時東は頷いた。そうする以外できなかったのだ。

 ここは、この人の世界なんだな。そんなことを思ってしまった。

 この人が生まれ育って、生活する世界。本来だったら、自分が存在しない世界で、自分がいなくても、なにも問題はなく回っていく世界。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ