表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/82

14:南凛太朗 1月3日21時30分 ②

「その子は?」

「いや、昔から春風のことが好きなんだよ。報われてねぇけど」

「あぁ、春風さんか。それは納得。職業柄、きれいな顔の人に会う機会は多いけど、それでもやっぱり格好良いと思うもん」

「おまえでもか」


 モデルでも、アイドルでも、俳優でも。きれいな顔の人間など、通話先の男は見慣れているだろうに、と。少し驚いた。

 地元の人間は、格好良いだの、素敵だの、と噂をしているけれど。


「逆に南さんは思わないの?」

「物心つく前から見てる顔だし、そこまでなんとも。昔はそれこそ女みたいだったけど」


 とは言え、だ。見た目に反し、春風の性格は昔からえげつなかった。からかわれると南が引くレベルの仕返しを完遂したくらいである。自分が庇う必要など皆無。むしろ、南は春風を止める側だった。

 そんなことはつゆ知らない母親に、「智治くんはかわいいんだから、一緒に帰ってあげるのよ」と言われるたび、なんとも言えない気持ちになったものである。人は見た目が九割というやつだ。

 つらつらとした思い出語りに、楽しそうに時東が笑う。


「美少女が大きくなったら美青年になる典型的なパターンだよね、それ。俺もそうだったもん」

「なに自分で自分のことを美形だって言ってんだ、おまえは」


 軽口で返したものの、想像は容易かった。時東も十分に整った顔をしている。スポットライトを浴びる「今」が似合う華やかさ。

 月子や海斗にしてもそうだが、人の目を意識する世界にいると、自然とそうなるのだろうか。


「ところで寒くない? まだ駅前にいるの? それとも歩いてる?」


 年上の同性をごく自然と気遣う言動に、南は笑った。

 こういうところに育ちの良さがにじんでいるというか、かわいいというか。


「まだ駅」

「そうなんだ。ちなみに俺はね、控室。出番待ちなんだけど、もうちょっともうちょっとって言いながら、だいぶ押してるっぽいんだよね」

「おつかれ」

「うん、ちょっとね。でも、電話できるのはうれしいかな。寒くはない?」

「うちのほうが寒い」

「たしかに。南さんの家のあたり、外気温低いよね。好きだけど」


 古い田舎の一軒家だからな。苦笑で応じ、自宅を思い浮かべる。

 底冷えのする寒さはあるけれど、それでも。誰かがいたら、マシになるのだ。

 たまらなさを感じる瞬間のある、一人の夜とは違う。


「俺さ。東京のマンションに戻ってからのほうが、なんか寒く感じるんだよね。絶対にマンションのほうがあったかいはずなのに」


 変だよね、と時東が笑う。そうか、と南も静かに笑った。自分も似たようなものだったからだ。


「うん」


 あまりにも素直な調子だったので、なんでなのだろうな、と。南はよくわからない気持ちになった。

 なんで、こういうところばかり変わらないのだろう。

 改札口から流れ出る人波に視線を向ける。

 幼い子どもを連れた若夫婦に、大学生と思しき若者たち。両親が生きていれば同年代だろう初老の夫婦。それぞれに仲の良い様子で通り過ぎていく。

 彼らのうちの誰が、通話相手が「時東はるか」だと思うだろうか。そう考えると、少し非現実的な心地がした。


「お友達の家までは、駅から何分くらいかかるの?」

「歩いて十分ってところだな」

「それはいいところだね、安心だ」

「なにが安心?」


 意図を掴み損ね、南は問い返した。


「いや、その、なんていうかさ。世の中いろんな趣味の人がいるじゃない。男だから安心かというと、そうとも言い切れないご時世なわけで」

「はぁ?」

「だって! そんな馬鹿じゃないの、みたいな声出さなくてもいいじゃん、ひどい!」


 なにをしどろもどろに言っているのかと不審がっているうちに、やけくそ気味に時東が叫んだ。「馬鹿か、こいつ」という呆れは正確に伝わっていたらしい。


「そりゃ、南さんは南さんだけどね。どんな趣味の人がいるのかなんてわからないし。そもそもとして、誰もが顔見知りの南さんの地元とは違うんですよ、東京は」


 いろいろな趣味を持った人間はいるだろうが、自分を選ぶという趣味は最底辺でなかろうか。

 実の親でさえ、そういった類の心配は、かわいすぎる幼馴染みに向けたくらいだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ