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14:南凛太朗 1月3日21時30分 ①

 メールも電話も不精である、と。自他ともに認める南にとって、意味のない長電話は面倒で苦手なものだった。

 かつて付き合った面々との喧嘩原因の上位である悪癖で、他愛のない連絡を厭う南の恋愛を「情緒がないねぇ」と笑ったのは幼馴染みだ。だが、そうすると、現状は情緒が育った結果なのだろうか。

 会う予定が反故になったと言っても、数日もすればやってくる相手だ。話す必要のあることがあったわけでもない。

 そのはずなのに。

 夜の街で聞くとりとめない時東の話は、不思議なほど悪くなかった。




[14:南凛太朗 1月3日21時30分]




「そういえば、今日は大学のころのお友達と、だったの?」


 ごめんね、ひさしぶりだったんじゃないの。そんなふうに気遣われてしまい、問題ない、と南は苦笑を返した。

 駅舎の壁に背を預けて通話をしているあいだにも、何人もの人が通り過ぎていく。雑踏を眺めながら、南は安心させるための言葉を選んだ。べつに、申し訳ない声を聴きたいわけではない。


「定期的に会ってるやつらだし。今も勝手に呑んでるだろ」

「大学のお友達とまだしっかり付き合い続いてるんだ。なんか、すごいね」

「すごいか? そんなもんだろ」

「だって、俺、友達いないもん」


 けろりとした調子で時東が笑う。それはおまえ、いないのではなくて、おまえが切っただけだろう、との突っ込みを、南は寸前で呑み込んだ。

 有名になった途端にすり寄ってくる人間って、本当にいるんだね。デビューしたら親戚が増えるっていう俗説。嘘だと思ってたのに、ガチだったよ。倍増しちゃった。年末年始に実家に帰ると、サインの書きすぎで、手首がだるくなるんだよね。

 そう言っていたのは、月子だ。笑い話半分という調子だったが、なんとも言えない嫌悪がにじんでいたことも事実で。

 だから、余計なことは言わないでおこうと思ったのだ。時東のそれは、また少し違うのかもしれないが。


 ――あの子はいまだに引きずってるよね、『Ami intime』。


 春風がそう言ったとき、なんだ、と南は得心した。俺の思い過ごしでなく、おまえの眼にもそう映っていたのか、と。


「まぁ、俺も続いてるのは、あいつらくらいだけどな」

「男ばっかり? 女の子もいるの?」

「ひとりいる」


 月子たちだと答えたら、この男はどんな反応をするだろうか。

 さほどの興味もなく「やっぱり」と笑って流す気もするが、押し入れで見つけたCDの件を絡めて尋ねてくるかもしれない。

 

 ――まぁ、ないか。


 後者の確率は格段に低いに違いない。海斗の家を出る前にも思ったことだ。

 時東の対人距離は近いようで、ひどく遠い。こちらがなにもしなければ、すぐそばに来て尻尾を振るくせに、触ろうとすると、さりげなくを装って距離を取る。そんなイメージ。


「その女の子ってさぁ」

「ん?」

「南さんのこと、好きだったりしない?」


 急に真面目な声を出すから、吹き出しそうになってしまった。いったいどんな心配をしているのか。そういえば、会ってすぐのころにも似たようなことを言っていたな、と思い出す。

 結婚して家族ができたら、気軽に遊びに行けなくなると踏んでいるのだろう。そんな心配は無用と言ってやったはずなのに。

 しかたない、と苦笑ひとつで否定する。


「ないない。あいつは、――」


 月子は、ずっと春風のことが好きだ。おそらく出逢った当初から。馬鹿みたいに、健気にずっと。


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