13:南凛太朗 1月3日21時15分 ④
――いや、でも、デートではないだろ。
落ち着かない気持ちを誤魔化すように、内心で否定する。
けれど、そうだとすれば、これはいったいなになるのだろうとも思う。これは、というか、自分たちの関係は。
友人というカテゴライズは、たぶん違う。だが、ただの知人と称するには、会う頻度が高すぎる気がしている。
そうなると、知人以上友人未満ということになるのあろうか。あるいはもっと単純に、友人になりかけている最中と評すべきなのか。
昨年に捨てはずの煩悩が、今も脳裏をよぎることがある。そのたび、必要以上に気に留めるべきでないと言い聞かせてきたけれど。
口からこぼれた溜息が白い息に変わり、夜に落ちていく。
時東の言う「好き」は、「ごはんが好き」と同じ意味合いのものだ。その延長線上に「あの場所が好き」、それらを提供する存在である「南が好き」がある。それだけのもの。
だが、しかし。「好き」と言って懐いているあいだの面倒は見てやらないとなぁ、と。南は思っている。
あいつにとっての、ほどよい距離感の逃避先として。そうであり続けるために、必要以上に気に留めてはいけないのだ。改めて結論づけたタイミングで、ちょうど駅が見えた。
時東と落ち合う予定の場所までは、ここから三駅。車がなくても楽に移動できるのは、都会の特権だ。田舎に住むとそうはいかない。
人の多さにほんの少しだけ辟易しつつ、電光掲示板の表示を確認する。あと数分で乗る予定の電車が到着するようだった。
改札に向かおうと足を踏み出した矢先、ポケットの中でスマートフォンが震えた。光る名前に、再び足を止める。
「もしもし?」
「ごめん。南さん。もう、外にいる?」
「いや、――もうそろそろ駅だけど、改札の中にまでは入ってない。どうした? 仕事、延びてんのか」
テレビの収録だけど、遅くても九時には終わると思う。だから、九時半くらいに待ち合わせでいいかな。隙間時間なんだけど、逢えたらすごくうれしい。
おまえはいったいいくつなんだ、と。確認したくなる素直さに絆されて結んだ約束だ。仕事で無理になったと言われても、南に責める気はない。
水を向けてやれば、「うーん、実は」と言いにくそうな返事。
「ごめんなさい。今はちょっと休憩中なんだけど、長引きそうで。あー、もう、本当にやってられない。俺、そんなに出番ないのにさぁ」
どんどんと不貞腐れていく調子に、南はそっと口元をゆるめた。どういう顔をしているのか、想像できる気がしたからだ。
「というか、ごめんね、本当に。南さん、もう外には出てたんだよね。お友達との新年会の邪魔した上に、こんなことになっちゃって申し訳ない」
「いいよ、べつに。電車に乗ったわけでもなかったから。ちょうどいい酔い覚まし」
「ねぇ、南さん」
躊躇いと甘えの混ざったよびかけに、「なに?」と問い返す。なんとなく思い出したのは、海斗の家を出る前に聞いた月子の声だった。
「もしよかったら、なんだけど。もうちょっとだけ、このまま電話しててもいいかな?」
「いいに決まってるだろ」
友人なのか、なになのか。それすらもわからない相手なのに。やたらと優しく受け止めてしまった自分に、南は少し驚いた。
下手をすると、先ほど月子の相手をしたときより、自然と甘やかしていたかもしれない。年始にもかかわらず仕事をしていることへの労わりか。それとも、こういった甘え方をしてくることが珍しい相手だったからか。
正解はわからなかった。けれど、電話の向こうでほっとした声が「ありがとう」と言ったので、「べつにいいか」という気分になったのだった。
少しくらい甘やかしても、罰は当たらないだろう。




