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13:南凛太朗 1月3日21時15分 ②

「えー! なんで! なんで、凛太朗が抜けるの!」


 べったりと月子にしがみつかれ、南はしかたなく座り直した。春風や時東ならいざ知らず、どこもかしこも華奢な身体はどうにもこうにも振り払い難い。

 おまけに、言っていることは、完全なる駄々っ子だ。持て余した気分で溜息を呑み込み、拗ねた顔の月子に視線を向ける。

 東京の海人のマンションで新年会という名の飲み会が始まり、約一時間。あっというまに酔っ払いができあがっている。


「抜けるって言っても、すぐだって。すぐ。小一時間で帰ってくるから。そのあいだだけ」


 三人で呑んで待っていたらすぐだろう、と南は宥めにかかった。

 不愛想だの、冷たいだの。怖いだの。そんなふうに称される自分にしては優しい声音を出したというに、びっくりするほど効果がない。新手の子泣き爺かなにかだろうか。つまることろ、離れる気配がないということだ。


「だって、ひさしぶりに会ったのに。こういうときくらい、あたしを優先してくれてもいいじゃない」


 おまえが一番に優先されたい相手は、俺じゃなくて春風だろうが、との心の声が届いたのか。あるいは、単純に見かねたのか。

 苦笑いと一緒に春風の助け舟が飛んできた。


「諦めなって、月ちゃん。凛、デートだから。デート」

「デート!? とうとう!?」

「誰がデートだ」


 そうして、なにが「とうとう」なのか。語弊のある言い方をするな、と否定するよりも、するりと離れた月子が春風にすり寄るほうが早かった。


「じゃあ、あたしもハルちゃんとデートする」

「はいはい。俺だけじゃなくて、海斗くんもいるけどね」


 春風のあしらい様に、南は思わず無言になった。

 俺の言動を雑だと非難する暇があるなら、自分の言動を省みろ。指摘したい内容はそれに尽きる。


 ――月子が憐れって言うと、さすがに、ちょっとあれだけど。


 でも、こう、なんというか。放っておくと、十年経っても同じやりとりをしている気がして、やきもきとしてしまうのだ。

 なにせ、十年近く前も同じやりとりをしていたと知っているので。

 めげずににこにこと話している月子を見守っていると、ちょいちょいと肩を叩かれた。視線を向ければ、呆れ半分といった調子で海斗が囁く。


「行くなら今のうちに行ったほうがいいと思うけど。またうるさくなるよ」

「……そうする」


 助言に従い、上着を手にそっと立ち上がる。リビングを出ようとしたところで、へらりと笑った春風が月子に見えない角度で手を振った。

 春風ばかりを見つめる月子は、まったく気がつく様子がない。苦笑いひとつで南は静かにドアを閉めた。

 いかにもうれしそうな姿を見ると、ついつい「付き合ってやればいいのに」と思ってしまう。親心のような、兄心のような、そんな感情。


 ――でも、そうなったら、海斗が気の毒か。

 

 幼馴染みの常套句は、「月ちゃんには海斗くんがいるでしょ」だ。「自分よりも海斗のほうが月子に合っている」ということで、「妹のようにしか見ることはできない」ということだ。

 わかっているから、南は「つい」を呑み込み続けている。


 月子は春風のことが好き。海斗は月子のことが好き。

 学生時代に結成したバンドらしく好きの矢印が乱立しているわりには、自分たちはうまく付き合っているのだろう。

 けれど、それも仲間であれば当然のことだと南は思っている。だが、これから会う男はその理論に頷くことはないのだろう。

 誰にでもすぐに心を開いて懐くふうでいて、核になる部分の壁が厚く、人を信用していない男だから。

 そういった微妙な機微に触れるたび、あのころはそんなふうではなかったのに、と。寂莫とした感情が蠢く。

 忘れたことにしている時東に、言うつもりはないけれど。


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