プロローグ後半
せっかく海に来たのに下を見るのはもったいない気がして海を眺める。
夏が近いからだろうか、水平線には立派な入道雲が沿って並んでいる。目線を少し手前に引いてみるとサーファーたちが蟻のように一列で浮かんでいる。沖まで流されてしまわないのか少し心配になった。
また歩き出そうと前を見るとテトラポッドが見えた。もうこんなに歩いたのかと思っていたら急に、強い海風が吹いた。誰もみる人はいないのに前髪が崩れた自分の顔面を心配する。こんな所でも人の目を気にしてしまう自分に、虚しさか情けなさか苛立ちか分からない感情が湧いてくる。
そんな自分にもうんざりで深呼吸に近いため息をついて腰を下ろして海と蟻を眺めた。今日は本当に空と入道雲が綺麗だった。
どれくらい時間が過ぎたのか。
気がついたら右側の空と海の境目が焼き鮭の色に、左側の空は群青色で江ノ島の灯台が光って回っていた。ひんやりした砂を踏んで波から離れる。
国道線に出て、来た道を戻ると橙色の弱々しい街灯が光っていた。国道134号線がこの街に差しかかると街灯の色が橙色になる。私はこの色と空の色の組み合わせが好きだと思った。
ぼんやりしていると寒気がした。陽が落ちて気温が下がったのかと当たり前のことを考えてゆっくり帰路につく。どこからかジーーーと虫かも分からない———おそらく虫なのだろう。が鳴き声が聞こえる。
少し湿気が増えたのか雨が降るのかは分からないけどなんだかジメジメしていて気持ち悪い。自分の体も海風に当たったからかベトベトしている。
夏がもう近くに来ている。そう思った。