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  作者: シカ
1/2

プロローグ前半

もうすぐ夏がやってくるような暑さ。

 ギラギラとした太陽の光が顔に強く焼きつけている。じんわりと額に脂が浮かんだ。

 とは言ってもまだ5月という異常な現実に絶望感を抱く。きっともう夏が隣に来ている。


 神奈川県の下の海側にある少しさびれた街に住んでいる。この街は都会でもなく田舎でもない所で非常に住みやすい。家から10分を歩けば海に着く。

 右を見れば江ノ島が佇んでいて、逆方向を見れば神奈川県の左足が見え、前を向けば大島がみえる。そんなこの海はどこか他の場所とは違うフィルターがかかっていて神秘的な要素があるように思える。


 国道134号線の信号はやけに空が近く非現実を感じる。海沿い特有の防砂林の向こうから波の音と木々の隙間から隙間風が吹き、そこに巣を構えるカラスや野鳥などの鳴き声が互いに混ざってかすかに聞こえる。


 海というものは身近にあるものの中で一番不思議なものである。何が不思議かも分からない不思議。たとえば、海の色は空の色という。赤色や黄色は弾かれて青色になるらしい。

 それにしてもどうしてこんなに惹かれてしまう色なのか、ただ青が好きなだけかもしれないけれど、海の色は青では無いから本当にできすぎている色だと思う。


 浜に出ると海がギラギラと光っていた。青とはいえない緑が混ざった色で。まだ少し冷たい風が吹き付ける。

 いい天気だった。


 今日はただ、一人でぼんやり歩きたかった。何も気にせず、考えず、なにもかも忘れてしまいたかった。

 ゆっくり、ゆっくりと、足を濡らしたくはないから潮痕を踏まないように下を向いて歩く。ビーサンを履いているから太陽で温められた砂に足が歩くたびに埋もれて心地いい。


 せっかく海に来たのに下を見るのはもったいない気がして海を眺める。

 夏が近いからだろうか、水平線には立派な入道雲が沿って並んでいる。目線を少し手前に引いてみるとサーファーたちが蟻のように一列で浮かんでいる。沖まで流されてしまわないのか少し心配になった。

 また歩き出そうと前を見るとテトラポッドが見えた。もうこんなに歩いたのかと思っていたら急に、強い海風が吹いた。誰もみる人はいないのに前髪が崩れた自分の顔面を心配する。こんな所でも人の目を気にしてしまう自分に、虚しさか情けなさか苛立ちか分からない感情が湧いてくる。

 そんな自分にもうんざりで深呼吸に近いため息をついて腰を下ろして海と蟻を眺めた。今日は本当に空と入道雲が綺麗だった。


 どれくらい時間が過ぎたのか。

 気がついたら右側の空と海の境目が焼き鮭の色に、左側の空は群青色で江ノ島の灯台が光って回っていた。ひんやりした砂を踏んで波から離れる。


 国道線に出て、来た道を戻ると橙色の弱々しい街灯が光っていた。国道134号線がこの街に差しかかると街灯の色が橙色になる。私はこの色と空の色の組み合わせが好きだと思った。

 ぼんやりしていると寒気がした。陽が落ちて気温が下がったのかと当たり前のことを考えてゆっくり帰路につく。どこからかジーーーと虫かも分からない———おそらく虫なのだろう。が鳴き声が聞こえる。

 少し湿気が増えたのか雨が降るのかは分からないけどなんだかジメジメしていて気持ち悪い。自分の体も海風に当たったからかベトベトしている。

 夏がもう近くに来ている。そう思った。

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