終電間際のホーム
金曜日の夜。会社員の相川は、職場の飲み会の2次会後、終電前でごった返す駅のホームに立っていた。
「……ったく。課長の自慢話が長引いて終電近くになっちまったじゃないか」
独りごちる相川。自分の前には長い行列が出来ていた。
「今日も満員電車か……」
ふと相川がホーム右側に顔を向けると、電車が駅に入ってくるのが見えた。
何の変哲もないいつもの電車。しかし、車内はガラガラだった。
電車が停まり、ドアが開いた。何故か誰も乗ろうとしない。
「何で皆乗らないんだ? 次の快速か何かを待ってるのか……まあ、各駅でも空いてて座れる方がいいか」
相川は、小走りで列の前に出ると、そのガラガラの電車に乗り込んだ。
† † †
ドアが閉まり、電車が動き出した。
相川は、ドア近くの席に座った。酔いもあり、眠たくなった相川は鞄を抱えて目を閉じた。
しばらくウトウトしていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
相川が目を閉じたまま耳をすますと、どうやら客と車掌が揉めているようだった。
「電車を停めて! ここから降ろしてよ!」
「次の終着駅までお待ちください」
終着駅?! どうやら寝過ごしたようだ。
慌てて目を開け、騒ぎのする方を見た相川は、息を呑んだ。
そこでは、何故かロープを首に巻き付けた女性が、車掌に怒鳴っていた。
体に比して不自然に大きくなった頭部。足下にはポタポタと何かの液体が垂れ落ちていた。
相川の気配に気づいたのか、その女性がこちらに振り返った。
その顔は異様なほどに腫れ上がり、眼球が飛び出ていた。
「わああああ!」
相川は叫び声を上げて立ち上がり、鞄を抱えてその場から逃げ出した。
車内の座席に座る乗客が驚いた様子で相川を見る。
しかし、その乗客達も、皆普通ではなかった。ぶよぶよに膨れている者、ガリガリで顔面蒼白な者、腕や足が引き千切れ、大量の血が出ている者……
相川は車両の連結部まで走り着くと、隣の車両へ逃げようと連結部の扉を開けようとした。しかし、鍵がかかっているのか開かない。
「開けてくれ! 助けてくれ! ば、バケモノだらけだ!!」
「バケモノなんて、お客様に失礼ですよ」
すぐ後ろから声がした。相川がビクッとして振り向く。
後ろには車掌が立っていた。
「はい、お客様、お忘れ物ですよ」
車掌は何故か相川の鞄を持っていた。
「え、鞄はここに……」
相川は、自分が胸元で抱える鞄を見た。
それは鞄ではなく、自分のグチャグチャになった腹部から溢れ出た臓物だった。
† † †
「ねえ、この前の金曜日、このホームで飛び込み自殺があったでしょ? あの時、私ここに並んでたのよ」
「ああ、あの終電が止まったやつね。事故現場を見ちゃったの?」
「そうなのよ。マジ最悪」
「どんな感じだったの?」
「何かさあ、列の後ろからスーツ姿の男の人が前に出てきたかと思ったら、ホームに入ってきた終電に飛び込んじゃったのよ」
「えー! 何か思い詰めてたのかなあ。どんな感じで飛び込んじゃったの?」
「それがさあ。まるで急ぎ足で電車に乗るようにごく自然だったのよね」
「へー。そういえば、このホームって、昔から飛び込みが多くて有名じゃん? それで、学生の間では『あの世行きホーム』とか言われてるらしいよ。あの世行きの電車でも見えたのかな?」
「ははは、まさか」




