第09話 ワインは万斛の蝋涙の如し(3)
は~っ……。
ジェイさんのお店、すっごくすてきぃ……。
店内暖色系で統一されてて明るいし、丸みがある木製の家具はカワイイし……。
それに席やテーブルの間が広くて、開放感あるぅ♥
落ち着くぅ♥
二階と同じ建物にある空間とは、とても思えないぃ……。
「……ふぅ、ごちそうさまでした。自家製のパンも、ベーコンエッグも、シャキシャキのレタスも、食後のコーヒーも……どれも美味しかったですっ。それにしても……ゆったりとした空間の、すてきなお店ですねぇ♥」
「一人できりもりするには、この席数が限界ですね。スカスカでみっともないです。アハハ……」
「いえいえっ! 本っ当に、すてきなお店で……!」
……一人できりもり!
一緒に働いてる奥さんや彼女さんは、いないってことっ!?
いやいや、だからなんだって話だけれど……。
ほんのちょっとだけ、夢のある情報!
「テナント料タダですから、なんとかやっていけてます。シアラさんには、本当に感謝です。はい」
「えっ……? 師匠に感謝……ですか?」
「あれっ、聞いてませんでした? この建物、シアラさんが大家なんですよ」
「大家さんっ!? 師匠がっ!?」
「毎朝の食事を用意する……という条件で、無償で貸してもらってるんです。もちろん、料理のお代はいただいてますよ?」
「そ、そうだったんですかぁ……」
「一階に店を構えると来客が増えるからって、二階建ての建物を買ったそうなんです。僕のお店はシアラさんにとって、目くらまし兼朝食用ってところですか。アハハハッ」
そう言えば師匠って、あれでかなりの大金持ちなのよね……。
高価な骨董品、たくさん持ってたし……。
「お店の奥は、居住スペースになってます。僕は休憩くらいにしか使ってませんから、エルーゼさんが好きなように過ごしてください」
「あ、はいっ! 助かりますっ! ありがとうございますっ!」
「えーっと……。それからさっき、シアラさんが言ってましたけど……。お店が忙しいとき、配膳だけでも手伝ってもらえると、助かりますね……。アハハ……」
「はい、それはもう! 料理の腕もそこそこですから、厨房もお任せくださいっ!」
「ハハッ、それは頼もしいです。でもエルーゼさんにとっては、接客のほうがいい経験になるんじゃないですか?」
「いい経験?」
「ほら、シアラさんの特殊技能……」
「特殊技能……。噤みの錠……の、ことですか?」
「さすがにそちらは、聞いていましたね。その合言葉の解読には、人間観察が欠かせないそうですから。それを経験させるために、僕のお店を手伝え……って、言ったんだと思いますよ。シアラさん」
「ええ~っ! あの人間ダンゴムシが、そんな気遣いするとは思えませんよ~!」
「アハッ、そんなことないですって! ああ見えてシアラさんは、コミュ力の塊です! このあと二階へ上がれば、きっとわかりますよ!」
……?
…………?
………………?
人間ダンゴムシが……コミュ力の塊?
頭の上に、クエスチョンマークいっぱい浮かんじゃう……。