第57話 ロンディール城跡攻防戦(11)
──朝……だと思う。
夜明け……ごろだと思う、たぶん。
だってこの高い外壁の内側じゃ、日の出見えないから……。
東の空がうっすら白んでて、聞いたことない甲高い鳥の鳴き声が、何度もしてる。
ううぅ……夜中から息白っぽいし……。
早く太陽を拝みたいっ!
「ふうぅ……終わった。最後の鉄杭、合言葉の設定完了だ」
シアラさんは結局、一睡もせず。
夜を徹して、噤みの錠を施した、鉄杭とチェーンによる囲み……結界を構築。
高さ二メートルほどの鉄杭の間に、縦六〇センチほどの間隔でチェーンが二本、地上間際に鉄条網が一本、繋がれてる。
それが城跡をぐるっと一周。
わたしは軽めの荷物を運んだり、眠気覚ましのコーヒーを出したりのお手伝い。
「……師匠、お疲れさまでした。大仕事でしたね!」
「やっつけもいいとこ……だがな、ふふっ。久々に病じゃない素の眠気がする」
「鉄の杭とチェーンの連結が、変則的な錠になってるんですね。アンチ・チルトも、当然かかってる……と」
「ああ、そうだ。さわるなよ。接触したら刺激を帯びた痺れとともに、柵の外側へと弾き飛ばされる。二メートルの跳躍力を持った奴はそうそういないだろうから、高さはまず十分。時間不足だったから、足元だけは鉄条網で妥協だ」
「しゃがんでチェーンを潜ろうとしたら針がブスブス刺さって、『いてーっ!』と頭を上げたらチェーンに接触……ですか?」
「そんなとこだな。『守る会』の連中を追い返せたら、解錠はおまえがやってくれ。杭のてっぺんへ合言葉を唱えれば、アンチ・チルトは解かれる」
「えっ……!? わたしが……ですか?」
「合言葉は杭ごとに適当に設定して、どれ一つ覚えてない。時間も心身も余裕なかったからな。こういうときこそ、おまえの総当たり発声技法の出番だろう」
「はなから合言葉覚える気ないって……それ、わたしのフォローありきの仕事じゃないですか~」
「そこは弟子へ積極的に仕事を回してる師を、褒めるべきだろう」
「単純作業じゃ勉強になりませんよー……って。あっ、スコッタさんとジェイさん」
早朝からピシッと正装決めてるスコッタさん。
声変わり前の少年なのに、さすがの身だしなみ。
その後ろを、従者のように控えめに歩くジェイさん。
あー……そう言えばなんだかんだで、ジェイさん巻きこんでしまいました。
スコッタさん、美しい所作でシアラさんへ一礼──。
「おお、この囲みを一晩で! お二方のご尽力に、当主として深く感謝します。まるで、夫婦城の云われの再現ですね」
「ま、エルーゼは見ていただけだがな。ははっ」
なに言ってるんですかっ!
シアラさんが眠ったときに、おかあさんへ交代するよう待機して……。
……ん、あれっ?
おかあさんへ交代するということは、見ていただけ……で正解なのかも。
「当主の身でありながら、昨晩は先に休んでしまい、申し訳ありませんでした」
「なに、当主の仕事はきょう。きばってエセ保護活動家たちの要求を突っぱねてくれ」
「はいっ! さあ、シアラさんとエルーゼさんは、もう休んでください。食事、風呂、睡眠……。いずれの準備もしてありますので、ごゆるりと」
「ありがたい。では、風呂、食事、睡眠といくか」
え、ええと……。
わたしもまずは、お風呂で体をあっためて、さっぱりしてから……。
──ぐううううぅ~♪
「エルーゼは食事、睡眠、風呂……ってとこか」
「わっ、わたしだって、風呂、食事、睡み…………ふああああぁ~」
「体は正直だな。ははっ」
あううううぅ~……。
エルーゼ・ファールス、十六歳……。
まだまだお子様です……。




