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第52話 ロンディール城跡攻防戦(6)

 ──翌朝。


「ふああああぁ…………くしゅんっ!」


 初めての街で、初めてのホテルの、一人部屋に宿泊……。

 ここの夜は解錠院の街から数℃は低くて、寒さで何度か目覚めちゃった。

 部屋はきれいで、ベッドもふかふかで、化粧台に姿見付き。

 さらにはビュッフェの朝食付き。

 シアラさん、お金持ちなのに渋るところはしっかり渋るから、安宿覚悟してたけれど……まともなホテルでよかった。

 朝食済ませたら、シアラさんの部屋へ起こしにいこうっと。

 一緒に食べてもいいんだけれど、ビュッフェだからなぁ。

 シアラさん、わたしのチョイスに駄目出ししてきそう。

 「肉ばっか取るな」とか、「よその郷土料理食って見識広げろ」とか、めっちゃ言いそう。

 でもその前に、窓を開けて、旅先の朝の空気を満喫──。


 ──カタッ……カラララ……。

 ──ひゅるるるるぅ……!


 わっ、空気冷たっ!

 ほっぺたヒリヒリするっ!

 お日様もまだ、稜線から半分しか出てない。

 日の出の時間、ここはかなり遅いみたい。

 ここの気候に慣れてないわたしのお肌、念入りにケアしとかないと、ガッサガサになっちゃいそ────。


 ──ビュッフェ。


 うわぁ……!

 広ーい、そして品数多い!

 てっきりパンとゆで卵とスープだけだと思ってたのに……。

 見るからにパリッパリの、朝摘み新鮮野菜!

 まだ油が跳ねてる焼き立てのベーコン、サイコロステーキ!

 そして……豊富な魚介類!

 お刺身、ホタテ、ぶっといカニの脚、たっぷりのカニ味噌、さらに……ボイルしたてで湯気もうもうの大きなエビ!

 海のエビ、大好き!

 田舎だと川のエビしか出回らないから、この大きな体と太い触角の海のエビに、どれだけ憧れたことか……ぐすんっ♪

 集中的にいただきま────。


「……ハッ! 豊漁でバカ安になってるエビ、トレー満載にしちゃってまぁ。お里が知れるわね、エルーゼ・ファールス!」


「えっ……? その刺々しい声……。その子ども染みた悪口……。子どもの背丈ほどからの発声……。まさか、ピャロさんっ!?」


 ……振り向くとそこには、予想通りのピャロ・ロットットさん。

 小柄な体に真っ黒なツインテール、なのに顔は細くて顎は尖ってる大人の顔つき。

 赤いフレームの眼鏡の奥には、サドっ気プンプンのきっつい眼差し。

 どんな異国で出会っても、他人の空似なんて微塵も思わない、唯一無二の強烈な容姿の持ち主。

 ()国家公務員で、いまはわけあって解錠師やら弁護士やらしてる。

 国家公務員時代のコネと、多彩な専門資格の数々が侮れない。

 そして……なぜかシアラさんに、ツンデレモード全開でちょっかい出してくる。


「当たりよ。っていうかアンタもずいぶんと、棘と悪口あっこう並べてくれたけど?」


「アハハハ……すみません。師匠の口汚さに、悪影響受けてるかもしれません」


「ケッ、いつも一緒アピール? でもそれも、この地でおしまい。シアラも今度こそ、このピャロ様の有能さと魅力に気づいて、そばへ置き続けたくなるわ」


「そ、そうなるといいですね、アハハハ……。それにしてもこんな遠方で会うなんて、奇遇ですね」


「奇遇なわけないでしょ、バカ? このピャロ様も、あの独眼ナンパ野郎の話に一枚噛んだってわけ。鎧壁の翁(ヴァン・ウォール)破りにね」


「えっ……? じゃあピャロさん、あの『ロンディール城跡を守る会』側についたってことですか?」


「なにさ、白々しい。ここに泊まってるってことは、鎧壁の翁(ヴァン・ウォール)へ挑む気満々なんでしょ? エントランスにも『守る会御一行様』って書いてあったでしょーに」


 あっ……!

 シアラさんが宿泊先に、このホテルを選んだのって……。

 団体客の歓迎パネルを見たからだわ!

 そう言えばビュッフェにいる中高年……きのう署名活動してた人たち!


「ホテルの従業員に頼んでおいた署名は?」

「だめだめ。全部空欄だよ。ここの商売人は、ロンディール家に逆らえないからな」

「……従業員に金を握らせて、宿泊者名簿から転載するって策はどうなった?」

「それがこのホテル、どうにも金に困ってそうなスタッフが見当たらん。きのうは決起集会があったから団体で泊まったが、今夜は安ホテルに人員をバラけさせる」


 ……ひええぇええっ!

 聞き耳立ててみたら……物騒な会話が飛び交ってる!

 署名活動って、いったい……?

 でもきっとこれが、シアラさんの狙い。

 「ロンディール城跡を守る会」の正体を探るための……情報収集。


「……本当に知らなかったようね。バカはバカのままにしておかないと、いらぬ動きをする……ってわけか。シアラも大変よね」


「あ、えーと……。そう言えば、レンさんはどちらへ? 話の流れ的に、レンさんも一緒のはずですよね?」


「奴なら日没とともに歓楽街へ消えたわ。ここには泊まってないでしょ。と、ときに……エルーゼ・ファールス?」


「はい?」


「昨夜は、その……。部屋は……シアラと別だった……のか? まあ、普通に考えて……別、よね? まさか同室ってことは……」


「同室でしたけど?」


「ギャッ!」


 ……嘘っ♪

 ピャロさんにはなにかと噛みつかれるから、たまには仕返し。


「ツ……ツインだな!? よく考えたらおまえたち、いつも二人で解錠院にいて、シアラはソファーで居眠り。まあ普段から、ツインの部屋にいつようなものだし──」


「ダブルです」


「ギュッ!」


「宿泊者名簿の続柄には、冗談で『夫婦』って書いちゃいました。あはっ♥」


「ギョッ…………」


「……なーんて、冗談ですよー。シアラさんはわたしのことお子様扱いですし、わたしも尊敬はしてるけれど、男としてはどうかなーというところですし。あと、シアラさんはベッドで横になると即寝ちゃうんで、もしダブルでもなにも起きな──」


「……………………」


「……固まっ(フリーズし)てますね。好き半分逆恨み半分でシアラさんにつきまとってるのかと思いきや……かなりのガチ勢? ま、わたしはこの隙に、エビ、エビ、エビ~♪」


 ……っとと。

 エビもいいけど、情報収集、情報収集……。

 ジェイさんも巻き込まれ始めてますからね。

 守る会の会話に、しっかり聞き耳立てておきませんと──!

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