第44話 時を超えたギフト(6)
────数分ほど経過。
「……はい、どうも。マリナさん、合言葉わかりましたよ」
「えっ? あ、ええと……もう、ですか?」
「ええ。ご協力、ありがとうございました。それでは、金庫の前へ」
「は、はい……」
釈然としない様子で、いすから立ち上がるマリナさん。
うん、それはそう。
着席してから数分間。
でもマリナさんの体感だと、一分も過ぎてないはずだもの。
マリナさんが懐に忍ばせていた物理の鍵を取り出して、レッドカーペットへ足を着けようとする。
それを、わたしが腕を伸ばして制止──。
「……マリナさん、そこで止まってください。レッドカーペットは踏まないでください」
「えっ? ですがここからでは、鍵穴へ届きませんが……?」
「物理の鍵は、シアラく……さんが回しますので、そこから動かないでください。さあ鍵を、彼へ……」
「……? は、はい……」
言われるがままのマリナさん。
頭の上に「?」をたくさん浮かべてそう。
一方、物理の鍵を受け取ったシアラさん。
持参の鞄から金属製の筒を取り出して、洗濯ばさみ状の先端に鍵を固定。
筒内部で重なってる節を伸ばして、二メートルほどの長さへ──。
きのうマリナさんが解錠院を訪ねてきたとき、わたしがとっさに掴んだ、部屋の隅に立てかけられていた謎の金属棒……あれ。
マリナさんは、露出させてる左目を丸くして、ぽかーん。
「あ、あの……シアラさん? それは?」
「離れたところから鍵を回す小道具ですよ。ほら、このように」
シアラさんが器用に、鉄棒を手繰ってみせる。
物理の鍵がすんなりと、金庫の鍵穴へと入る。
ここでいよいよ、わたしが合言葉を伝達──。
「ではマリナさん、合言葉をお伝えしますね。『われら、永遠に同じ齢を!』……です」
「われら……永遠に同じ……齢を……」
「『われら』で一秒ほど間を置いて、『齢を』は語尾を強めたほうがよろしいかと。それではわたしの合図で、大声で発声願います……………………どうぞっ!」
「わ…………。われら、永遠に同じ齢を──!」
──ガチャッ……!
合言葉の発声と同時に、シアラさんが金属棒を手繰って、物理の鍵を回す。
次の瞬間────。
──ガガガガガガッ……!
金庫の前の床が、内開きに大きく、勢いよく抜けて……!
レッドカーペットを飲み込むっ!
そこに現れたのは……底が見通せない、深い深い暗い穴っ!




