第43話 時を超えたギフト(5)
「──ようこそお越しくださいました。シアラさん、エルーゼさん」
わたしたちを出迎えてくれたマリナさんは、ボディーラインにフィットした、純白のロングドレス姿。
きのう解錠院を訪ねてきたときの黒いドレス同様、あちこちにメッシュ入り。
スカートなんか、太腿までスリットが伸びてて、とっても扇情的。
けれどやっぱり、年齢が出やすい肘や膝を隠してるデザイン。
見せるべきところは見せ、隠すべきところは隠す……ですね。
でも、ネックラインの花柄を象った細かい装飾は、首の皺を隠すためじゃなくって、たぶん花嫁衣裳の名残……。
……念のため、聞いてみたいな。
「……マリナさん。そのお召し物、ウエディングドレスですか?」
「ええ。二十年前に着たものを、テーラーでアレンジしてもらいました。あでやかなものを着る年でもないですから、シックに弄ったのですが……似合っていますか?」
「ええ、とても! ご主人が見たならば、目を細めて喜んでくださることでしょう!」
「ウフッ、ありがとうございます。ではさっそくですが、金庫のある部屋……式場へ案内します。こちらへ」
……先導するマリナさんの後ろ姿、スリムでうらやましい。
アップのシニヨンでまとめた後ろ髪の下には、白くて細い首……。
正面からでもパッと見アラサーなのに、後ろ姿限定だと二十代半ば……。
再婚相手に立候補した男性、相当いたんだろうなー。
シアラさんもいま、見とれてたりして。
あーでも、シアラさんは年上アウトオブ眼中だってレンさんが言って…………おっと、これはいま禁句禁句。
「……こちらです」
やたらとニスでてかてか光った、厚そうな木目の両開きドア。
マリナさんが細腕で、重そうに左右へオープン──。
──ガチャッ……ギイイィ……。
「どうぞ」
……部屋の中は、外壁と同じ白銀の壁一色。
ドアの正面の壁に、金色の金庫が埋まってて、扉だけを見せてる。
金庫の扉には、鍵穴にレバー……。
あれが噤みの錠の金庫……ね。
金庫の手前の床には、申し訳程度にレッドカーペット。
二人が並んで立てる程度……。
きっと、新郎新婦が並ぶスペース。
マリナさんがあそこに立って、合言葉を唱えるわけね。
一枚だけある厚そうなガラス窓と、金属製の枠組み。
そこから見えるのは、さっきの生け垣。
……確かに屋内から見ると、生け垣の荒れ具合、よくわかるかな。
「それではシアラさん、合言葉の推察、よろしくお願いします」
「わかりました。その前に少々、部屋の中を観察させてください。その間、弟子がいくつか質問させていただきますので、お答え願います」
「はい。わかりました」
「それじゃあエルーゼ、頼んだぞ。そちらのいすをお持ちして、マリナさんを座らせてあげて」
部屋の隅にある、背もたれ&手すり付きのいす……。
けっこう重そう。
シアラさん、持ってあげればいいのに。
「……ふう。それではマリナさん、こちらへどうぞ。いくつか質問をさせていただきます」
「はい」
着席したマリナさん。
わたしが中腰になって、マリナさんと目の高さを揃える。
「すみません、マリナさん。お顔をよく拝見したいので、右目を覆っている前髪、少しの間だけ、手で払っていただいてもよろしいでしょうか?」
「……えっ?」
「お顔の印象が、合言葉の推察に繋がることも多いので。お願いします」
「は、はい……。わかりました」
マリナさんが前髪をそっと払って、両方の瞳をあらわに。
左右とも、情熱的な印象の赤褐色の、きれいな眼球……。
前髪で傷跡を隠してたとか、右目だけ一重だとか、そういう事情はなさげ。
単に好きな髪型だったってだけみたい。
「それでは、いくつか質問をさせていただきます」
わたしは、赤褐色の眼球を真正面から見つめる────。




