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第39話 時を超えたギフト(1)

 ──あの爆弾事件から、早二カ月。

 そろそろわたしへの称賛も落ち着いてきて、一息ついたやら、ちょっと残念やら。

 最近はシアラさん、わたしを頼れる弟子と見てくれてるのか、簡単なお仕事なら、任せてくれるようになりました。

 ……まあ、睡眠時間の確保が、本音なんでしょうけど。


 きょうのご依頼人は、鋼鉄製の小箱を持ち込みの、ロディ・フェーザントさん。

 年も背格好もシアラさんに近いけれど、光沢のあのブラウンの髪と、目を細めてよく笑う人柄がまぶしくて、とっても好印象。

 あの理知的な雰囲気を醸してる四角い眼鏡も、いいですよね~。

 わたしの周り、まあまあイケメン多いですけど、眼鏡成分が不足してるので。

 左手の結婚指輪が、減点要素ですけど……アハハ。

 さてさて、脚のないこの小箱……。

 典型的な噤みの錠で、鍵穴の構造は、素直なピンシリンダー……。

 ……あっ、いまのリアクション、初めて会ったときのシアラさんっぽかったかも。


「……ロディさん。物理の鍵は、お持ちでなかったんですよね?」


「ええ、この箱だけです。外国住みの父が露店で買い散らした品々を、適当に詰め込んで送ってきまして。その中にあったものです」


「そうですか……。ちょっと失礼して、触感をば」


 人差し指の背中で、表面の錆のそばを軽くコンコン……と。


「……表面、ところどころ錆びてますけど、箱は頑丈そうですね。厚さ、一センチ以上ありそうです」


「さすが。軽く触れただけで、そこまでわかりますか」


「え、ええ……。なにしろ解錠を生業なりわいにしていますから。アハハ……」


 ……師匠はノックで、厚さ八センチをピタリ当てましたからね。

 一センチじゃ、まだまだ半人前の半人前の半人前……です。

 ではいよいよ、解錠作業に……!


「……それではロディさん、これより解錠を始めます。最後に確認しておきたいのですが……合言葉には、心当たりはありませんか? たとえば、お父様の口癖だとか、座右の銘だとか……」


「うーん……ないですね。単に自分で開けられなかったので、お土産と称して丸投げしたのでしょう。僕も開けかたを調べるうちに、噤みの錠という存在を知ったくらいですから」


 ……なるほどなるほど。

 合言葉に込められた想いは、なさそうですね……。

 では、おかあさん譲りの総当たり発声技法(ワイルドカード)と、師匠直伝のピッキング術で、ちょちょい……っと!


「いきますっ! ****(ぼそぼそぼそぼそ)……」


 ──カチャカチャッ……カチャッ、チャッ…………カチンッ!


「……ふう。解錠成功です」


「えっ、もうですか? 合言葉……いったいどうやって推察したのです?」


「えっと、それは企業秘密でして。アハハハ……」


 発音総当たりなの、スキルとしてはインパクトありますけど、合言葉の読み解きを放棄してるから、ちょっとバツが悪いんですよねぇ……。


「……それでは、解錠師としてのお仕事はここまでになります。箱の蓋を開くのは、所有者の特権にして義務……となります」


 うーん、この言い回しもシアラさんのパクリ。

 でも弟子だから、師匠から盗めるものはなんでも盗んでよし!

 ……ですよね!


「なるほど。箱を開ける楽しみは、箱の所有者のもの。箱を開けるリスクも、所有者が負う……というわけですね。承知しました」


「リスク……ですか?」


「出所も時代もわからない箱ですから、当然でしたね。内部のものが腐敗して、有毒化してる恐れもありますし。ドアの外で開けましょう」


「あっ、なにもそこまで」


「僕の大学の同期に、考古学を専攻した友人がいるんですが。古代人の排泄施設を掘り当てた際、毒素に当てられて白内障を患ったんですよ。古いものに接するときは、用心を重ねませんと」


「で、では……外でお願いします」


 ……なるほど、そういう危険性もありますか。

 も~、シアラさん、そういうこともちゃんと教えてくださいよっ!

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