第34話 一一一分の一(2)
「……これがその死亡者リストだ鍵屋! 確率一一一分の一! なんとかしろっ!」
「そいつらの言い分、信じる気か?」
「疑いは捨てちゃいねぇさ! だが捜査ってのはまず、手の内の情報広げていくもんだ! 鍵屋も似たようなもんだろっ!?」
「…………」
「言っておくがわしはこの件を担当した以上、最後までこの起爆装置から離れねぇ! 合言葉が分かれば、鍵はわしが回してやるさっ!」
「フッ……威勢のいい爺さんだ。爆発の時刻と、犯人らの特徴は?」
「時刻はガルツァ渓谷落橋事故が起きた、午前一一時七分。いま午前一〇時五一分だから、猶予は一五分ちょっと……だな。犯人は三人組。いずれも事故の遺族! 爆弾屋、鍵屋、元軍人。全員高齢の男!」
「……では、鍵屋に会わせてもらおうか」
「そいつなら爆弾設置後に、服毒自殺した」
「なにっ?」
「橋の定期検査が不十分だったと、鉄道会社の責任追及を続けている遺族会のメンバーで、娘夫婦と孫二人を事故で失っている」
「チッ……。呪いそのものを解除できる施錠者は自害……か。では、犯行の動機……は……? ただの復讐ならば……時限式にする必要はない……からな……」
「リーダーの元軍人が、事件の風化を懸念した……と言っている。鉄道会社が事件を忘れず教訓にしていれば、合言葉はわかる……ともな」
「ヒントは……あるって、ことか……。詳しい奴、当時の新聞……の類……は? うう……」
「おいどうした鍵屋っ! 具合悪そうだぞっ!?」
「持病だ……。ここで出る……とは……な。やっぱりこの仕事……下りさせて、もらうぜ……」
持病っ?
まさか師匠っ……!
「師匠っ! 過眠症ですかっ!?」
「レンから……聞いてたか……。いいかエルーゼ……この仕事は下りた。おまえは……手を出すな……逃げろ。合言葉を間違えれば……。この起爆装置ごと……爆発す……る……うぅ…………」
「師匠っ!」
「すううぅ……」
こ、こんなときに過眠症……。
タイミング悪すぎですっ!
え、えっと……師匠を抱えて、ここから逃げなきゃっ!
「すみません刑事さんっ! 師匠は病気でしばらく目を覚ましませんっ! 連れて逃げますっ!」
「おいふざけるなっ! 大勢の命が懸かってるんだぞっ! 叩き起こせ!」
「できませんっ! 眠ってるようでも……病気なんですよっ!」
「だったらおまえがやれっ! そいつの弟子なんだろっ!? ほら、事故の死亡者リストだっ! ここから合言葉を見つけだせっ!」
──ばさっ!
ええっ……!?
そ、そんなこと言われても……困りますっ!
でも、とりあえずは……リストの名前を、端から目で追って……と!
「あ、あの……刑事さん? 順当に考えれば、合言葉は……。その自決した人の身内……じゃないでしょうか?」
「さっきも言ったが、鍵屋の身内は娘夫婦と孫二人! 娘婿を除いたとしても三人……。そっからまだ絞り込めんっ!」
「では、ほかの犯人の身内は……?」
「それも複数! あと当然、鉄道会社関係者……死んだ車掌や乗務員の名前ってセンもある! くさそうな名前だけでも二〇を超えるっ!」
「そ、それじゃあ……絞り込めてないも同然じゃないですかぁ!」
「あっちで残り二人を問い詰めてるが……一言も話さねえっ! 仲間の服毒自殺を見て、覚悟を決めたようだっ!」
うううぅ……!
師匠の言うとおり、逃げるべきなのかも……。
で、でも……たくさんの人の命が……。
わたしにできることがあるなら……ギリギリまで頑張ってみたい!
だから出てきて……おかあさんっ!
力を貸して……おかあ…………えっ!?
リストにある……この名前っ!?
「────────っ!」
──ドクンッ!
こ……この名前……。
アルベルゼ・ファールス!
エザベラ・ファールス!
続柄…………夫婦っ!




