第26話 開錠屋レン(9)
──うううぅ……。
視界が真っ赤に染まって……意識が飛んで……。
気がついたら、金庫開いてた……。
女の子は……女の子はどこっ?
「師匠っ! 閉じ込められてた子は、どうなりましたっ!?」
「病院へ運ばれた。もちろん闇じゃない、ちゃんとしたところへな」
「光の病院ですねっ! よかった……ふぅ」
「……妙な言い回し作るな。女の子は意識もあって、酸欠の症状もなかったんだがな。念のため、だ。マーサさんもつきそっていった」
「そうですか……。ところで、レンさんは?」
「女の子の搬送の騒ぎに乗じて消えたよ。噤みは俺が解いたってことにして。このままここにいても、リスクしかないからな」
「師匠はレンさんを見逃したんですね。犯罪の片棒を担いだのは、事実なのに……」
「この仕事、清濁併せ吞まなきゃやってられないんでな。イヤなら辞めることだ」
「いまはまだ……判断できません」
「試用期間のうちに、答は出しておけ。腹の座ってない奴は、弟子に取らないから。さ……俺たちも帰るか」
「……はい」
「そうそう。警察から感謝状を贈ると言われたが、数字が書いてない紙はいらないと断った。ハハッ」
「……辞める方向へ気持ちが傾く話、よしてください」
それにしても、さっきの……。
女の人の声、男の人の声……。
そして、わたしの声……。
わたしの……記憶?
両親の……記憶?
だったら、おかあ……ジョゼットさんは、本当はわたしの……なに?
「……おい、鍵屋。よくわたしの二段階施錠を解けたな。褒めてやるよ」
「ああ、俺からも褒めてやるよ。なかなかに手こずらせてくれたな、国家公務員殿。おっと、この事件で失業か。無職殿」
「フンッ! 次は絶対おまえに解けない噤み、施してやるからな! わたしはピャロ・ロットット! 覚えとけっ!」
「殺人から殺人未遂に減刑してやったんだ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはないがね。だが、感謝状はいらんぞ」
「なーにが殺人未遂だ。こんな状況、執行猶予つけんのわけないね。もろもろ終わったら……鍵屋へ転職だっ! 絶対に開かない噤みで、テメーも廃業させてやるよっ!」
「……確かに、『合言葉はちゃんと覚えていました。ほんの脅しですぐに開けるつもりでしたが、夫人に乱暴されたので』という弁明はできるな。ああそうそう。男のほうの弟子が、アンタの施錠を褒めてたよ。ガチガチの貞操帯着けてる処女みたい……だってな」
「キーッ! あの眼帯野郎も復讐リストに追加だっ!」
「……よしよし、これで怒りの矛先も分散するな。帰るぞ、エルーゼ」
「エルーゼも復讐リストに追加っ!」
え……。
なんで……?




